魔女たちの守る眠りと、私の夢想
第42回(令和4年度)
全国高校生読書体験記コンクール県入選
坂井天音さん(私立第一学院高等学校 新潟キャンパス)
(取り上げた書名:『魔女たちは眠りを守る』/著者名:村山早紀/出版社名:KADOKAWA)
私は、村山早紀さんの書く物語がとても好きです。この体験書籍に選んだ″魔女たちは眠りを守る″に出会ったのも、村山早紀最新作、の文字に惹かれたからです。ただそれだけの理由で手に取った本でしたが、魔女たちは眠りを守るは私の期待を超え、すっと私の中に入ってくる言葉で綴られ、あたたかな物語が紡がれていました。
特に私が「あぁ、好きだな」と感じたのは第一話の遠い約束です。この話は第一話ということもあり、中心人物である七竈七瀬とその元同級生平田叶絵の過去のお話で、魔女である七瀬と過ごした一ヶ月のことを自分の夢だと思っていた叶絵と七瀬が年を取り再会する、というストーリーです。この話を受け、私はふと思い当たる節がありました。
中学生の頃、私は全くと言っていいほど学校に通えていませんでした。その頃は記憶が殆ど無い程、曖昧で辛い日々でした。自己嫌悪と罪悪感で心がいっぱいいっぱいで、どうしようもない生活の中に、ほんの僅かだけ憶えている事があります。私を励ましてくれる声の存在です。日中は、一人で家にいた私は頭がいっぱいでない時、少しだけ勉強することがありました。中学生なので本当は毎日きちんと勉強しなければならなかったのですが中学校を思い起こす何かを少しでも見るのが辛かったその頃は、勉強が只管に苦しかった時です。その中でなぜ気力が湧いてきたのかそれは、私の頭の中で私を励ましてくれる声のおかげです。嫌だ、辛い、やりたくない、そればかり考える私の頭の中で、やらなければいけないと言い続けた、私のもうひとつの思考、それが励ましてくれる声でした。頭の中だけのはずのそれは、私の中で一人でいる私の隣にいてくれるイマジナリーフレンドのようなものだったのです。
″遠い約束″の主人公叶絵も、大人になってからは七瀬のことをその類だと思っていました。なぜなら周りの同級生たちが七瀬のことを憶えていないからです。私の「声」と違い、叶絵の友達だった七瀬は、本物で、魔女で、必ずもう一度会うという約束をしてくれます。でも、私の中の「声」と思っているものだって、もしかしたら魔女がかけた魔法のせいでそう思っているだけで、本当は支えてくれたのは魔女かもしれません。そう思うだけで、私の生活は少し夢のある、素敵なものになります。
例えば、″かがみの孤城″(辻村深月著・出版ポプラ社)の主人公安西こころのように誰もが羨むような友達が転校生としてクラスに来て、自分の居場所ができるのを夢想するのだって、現実だけ見れば虚しくて、寂しいことだけれど、もし、と本気で思うことができたなら、それは自分の中でまるでお守りのように、褪せず光を発してくれると思うのです。信じる、というのはとても難しいけれど、たったそれだけで「もう大丈夫」と思える時があることを、私は″魔女たちは眠りを守る″を読むことで、思い出しました。叶絵が、七瀬ともう一度会う約束を支えに、仕事を頑張ってくれたおかげです。
この作品の中で七瀬は、たくさんの旅を介したある町で、様々な出会いを経験し、そして別れを繰り返します。魔女は長命ですからこの町で出会った人々と会うことはもしかしたら二度とないかもしれません。そんな悲しい事実を優しく綴ったこのお話ですが、著者である村山早紀さんが伝えたかった事として一つ、私が読み取ったのは、チープですが「別れは辛いだけのものではない」ということです。私はこれから、沢山の人と出会い、別れ、また出会う。それを繰り返すのだと思います。でも心の中に、少しメルヘンでファンタジーでもいいから、何か大丈夫と思い信じられるものがあることで、辛いだけの出来事や、別れをちょっとだけポジティブなものに変えることができるかもしれません。そういう希望のような、こういうやり方もあるよ、という案みたいなものを、この本は物語として教えてくれました。
私には、まだ「これで大丈夫」と思えるような物は微かにしかありません。なので今度私の友人として誰もが羨むような実は魔女の転校生が、クラスにやって来るといいな、と思います。