無限の情報と有償の情報
電気電子情報工学科 教授
小室 貴紀 先生
情報を伝える媒体としては、紙の本は時代遅れかも知れません。
インターネット上には人が一生かけても閲覧しきれない、無限と言って良いほどの情報があり、その大部分が無償で利用できます。しかも手のひらに乗るほど小さなスマートフォンがあれば、誰でも簡単にアクセスできます。一方、紙の本は100冊でも相当かさばり、一度に持ち歩くことは不可能ですね。利便性から言えば、紙の本に存在価値はないかもしれません。
しかし無限の情報があることと、あなたにとって大事な情報が含まれているかは別の話です。ゲームへの課金ではなく、「有償の情報」を利用したことがありますか? 無償の情報だけで十分でしょうか?
紙の本は、出版社がその本を世に出す価値があると認めるから存在するのであり、筆者の独りよがりはありえません。有償になるだけの価値はあります。
図書館は、有償の紙の本を無償で利用できます。著作権的には特異点。近い将来には、紙の本が重要でなくなる日が来るかもしれません。でも今は、紙の本にも価値があります。
その価値を、本学の図書館を利用して無償で楽しみましょう。
吉村 昭 著『高熱隧道』
情報工学科 教授
田中 博 先生
三十数年ぶりに読んでみた。心の底に重く、深く、何かが残る読後感は当時と同じであった。本書は昭和10年代前期に行われた、黒部第三発電所のトンネル工事に関する記録的小説である。岩盤温度が200℃に迫る異常な現場で、自然の猛威と強引と言える工事の中で300名を超える犠牲者を出しつつ、貫通を成し遂げた技師、人足の姿を再現している。極限状態の中で諦めない/諦められない人間の姿を通して、人間を駆り立てるものは何なのか、ということを何度も考えさせられる。あわせて、技師たち、人足たちそれぞれの違いによる微妙な関係を通して描かれる人間の醜い一面にも向き合わざるを得ない。
「ペンは剣よりも強し」という言葉に、不遜なニュアンスを感じることもある私であるが、この本は、純粋にこの意味を改めて納得させてくれるものである。と同時に、事実をもとに、人間の営みと自然の威力を文章の形で抽出する作家の力量に感嘆を禁じ得ない。三十数年後の今言えることは、心に残った本の記憶は何等かの形で読者に影響を与え続けるものなのかも知れない、ということである。
蛇足になるが、重たいものが苦手な学生諸君には、平岩弓枝著「風の墓標」が一冊。南蛮貿易盛んな時代から鎖国へと幕府の政策が一変する中で、愛を貫き、ひたむきに生きた男女の物語。グローバル化の時代に反する、と思いつつ望郷の念に深く共感してしまう。
『高熱隧道』
吉村 昭 著 新潮社
配置場所:1階文庫書架
請求記号:B913||Y
書誌URL:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB01086300
『風の墓標』
平岩弓枝 著 新潮社
配置場所:2階書架
請求記号:094||S||H.Y.
書誌URL:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB00049591
黒柳徹子 著『窓ぎわのトットちゃん』
私はベトナムからの留学生で、いま情報工学専攻の1年生です。日本に来る前に、「窓ぎわのトットちゃん」をベトナム語で読みました。この本は40年ぐらい前に日本で大ヒットしましたが、ベトナム語を含む世界各国の言葉に翻訳されています。私のベトナムの友人たちの間でも良く読まれているベストセラーです。
この話は、ずっと昔の第2次世界大戦前の時代の話です。トットちゃんは、小学校でわがままな事ばかりしたために、トモエ学園という特別な学校に送られます。その学校では、何をやっても叱られず、好きなことを自由にやり、成績などを気にしなくて良い場所でした。トットちゃんや学校の友人たちは、そこで自由に学び、好きな分野の能力を伸ばし、卒業後はそれぞれの分野で活躍するようになったそうです。残念なことに、トモエ学園は戦争で焼けて、無くなってしまったそうです。
ベトナムの教育は、この本に出てくる日本の小学校とだいたい同じです。生徒が自由に好きなことをすることはできません。先生は厳しくて、ルールを破ると叱られます。トモエ学園のような自由な教育には憧れますが、でも全員が自由なことばかりするのでは、社会がどうなるのかという心配が残ります。アメリカやヨーロッパでは自由な教育を大切にするそうですが、どうなっているか興味があります。
この本は小学生でも読めるやさしい本ですが、たいへん興味深い内容です。みなさんも小学校や中学校で読んだかもしれませんが、もう一度読んでみることをお勧めします。
『窓ぎわのトットちゃん』
黒柳徹子 著 講談社
配置場所:1階文庫書架
請求記号:B916||K
書誌URL:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB01068790
国際経験を通して -インドネシアにおける母子保健活動-
看護学科 特任教授
芝山 江美子 先生
日本の母子看護分野での国際協力活動は、JICAプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)事業の中に組み込まれています。主としてスーダン・フィリピン・インドネシアなどに専門家が派遣され、母子看護・保健に関しての啓発活動を行っています。日本もかつては途上国の1つでしたが、現在では世界最高水準の母子保健サービスを行うようになった結果、妊産婦死亡率は途上国の100分の1、5歳未満児死亡率は20分の1となり、世界のトップレベルの水準になりました。この経験を生かし、途上国に日本の母子保健サービスの経験の提供など、包括的な医療保健協力を行っています。
私は保健医療・公衆衛生の専門家として、埼玉県庁からJICAの「母子健康手帳プロジェクト」参加のため、ネパールには1995年から2年間赴任しました。その後、インドネシアのマナド市に1998~ 2001年までの4年間赴任しました。当初の目的は、母子健康手帳を配布して、妊産婦死亡率と乳児死亡率が高い地域において、母子健康保健に関する知識を広く普及し、母子の健康保健状況を改善することでした。 母子健康手帳の利点は、識字率があまり高くない地域においても、母親に理解できるように多くのイラストを使用することで、妊娠中に母親が気をつけるべき事項について説明できることです。国によって、歴史的および社会的背景、文化や民族が異なります。そのために、さまざまな分野の知識を吸収し、柔軟な発想が海外での保健活動には求められます。重要なことは、インフラ・医療設備だけでなく、保険医療制度や栄養指導、指導者の育成など多角的な面でのアプローチを継続していくことだと感じました。
学生さんも積極的に海外経験をしていただければ、さら
に視野が広がって、多くの「心の財」を増やすことができ
ると思っております。
笠井献一 著『科学者の卵たちに贈る言葉 江上不二夫が伝えたかったこと』
応用バイオ科学科 教授
栗原 誠 先生
理系の皆さんなら、この本のタイトルが目に留まるのではないだろうか。この本は、戦後日本の生命科学を牽引した江上不二夫(1910-1982)という凄い科学者が、弟子たちに残した言葉を書き記したものである。江上先生はとてもユニークな先生でおられたようで、弟子たちに伝えた言葉もありきたりなものではなかった。
「研究はスポーツ競技じゃないので、他人に勝つのが目的ではない」とか、「誰かがやるに決まっている研究なんかやってもつまらない」とか、「独創的という言葉に踊らされていると独創的な研究には近づけない」とか、「実験が失敗したら大喜びしなさい」などといった刺激的な語録が並んでいる。また、その意図しているところを笠井先生が解説している。江上先生の言葉に納得し、感銘する人や、逆に反発する人もいるかも知れないが、私はこの本からとても『元気』をもらった。
生命科学研究のエピソードが散りばめられているので、生物を学んでいる人は興味深く読めると思うし、生物以外でも自然科学に取り組んでいる人なら、江上先生の思想を理解できると思う。先ずは手に取って目次だけでも見てもらいたい。きっと、江上先生の術中にはまって読み進めてしまうに違いない。
『科学者の卵たちに贈る言葉
江上不二夫が伝えたかったこと』
笠井献一 著 岩波書店
配置場所:2階書架
請求記号:407||K
書誌URL:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB01088579
但木一真 編著『1億3000万人のためのeスポーツ入門』
「eSports」……その名前をどこかで聞いたことがあるという方がいるかもしれません。
今回、僕がおすすめする『1億3000万人のためのeスポーツ入門』という本は「いーすぽーつ」ってなんだ? という方や「eSports」に参入してみたいがよくわからない、そういった方々にぴったりの一冊だと思います。
そもそもこの本を手に取るきっかけとなった背景は、僕が1年ほど前に設立したメンバー約60人の「KAIT eSportsサークル」の運営を務めていることにあります。その中で、これからのサークルの活動について、運営サイドとしてどのようなスタンスをとっていけばいいのか、周囲に「eSports」を知ってもらうためには、どういったアプローチが必要であるのか、などと様々な課題に直面することがありました。「学生だからと言って甘えが通用するわけではない」、「いつまでもサークルのままでいたくない」といった僕自身の思いと格闘している際に、なんとか打開策はないものかと手に取ったのがこの一冊です。
まだまだ国内における「eSports」は黎明期といえるでしょう。「eSports」について何も知らないという方には、是非、手に取って「eSports」を知っていただきたいと思います!