図書館Café Vol.8 No.1 発行日:2018年12月26日

発行所:神奈川工科大学附属図書館
 図書館長:小川 喜道 編集委員長:高橋 宏
編集委員:小澤 秀夫・水谷 郷美・渡邉 怜・摺淵 亜希子




 今年度で5回目を迎える神奈川工科大学読書コンテストは、学生の主体的な学びを励まし、文章作成・発表の実践力を培うことを目的として、基礎・教養教育センターと図書館の共催で行われるイベントです。読書感想文の文章評価による第一次審査と、発表会でのプレゼンテーション審査によって、各賞(学長賞・図書館長賞・紀伊國屋書店賞・優秀賞)を決定することに特徴があります。
 今期は45件の応募があり、優秀作品に選ばれた10名が、9月21日(金)の発表会で、自身の想いを言葉に乗せて見応えのあるプレゼンテーションを繰り広げました。
 図書館Café Vol.8 No.1(読書コンテスト特集号)では、今回も受賞作品の全文を掲載いたします。ぜひ、今後の読書と学習の参考にしていただければ幸いです。

学長賞

人付き合いの処方箋


 人である以上、一生向き合わなければならないもの―それが人付き合いである。子供であろうと、大人であろうと、どこに住んでいようと、どこで働いていようと、人付き合いは必要である。どんな人でも一度は人間関係や他者との付き合い方に悩み、疲れ、面倒だと思わされるものだ。しかし、その労力あってこそ人付き合いが成り立ち、人付き合いあってこそ私たちの暮らしがあるということを、この本では思い出させてくれた。
 「女の人間関係」となっているものの、ここで取り上げられている人間関係は男女問わず通用する内容となっている。例えば、「NOが言えない人の特徴として、断れない理由を誰かのせいにし、気持ちのどこかで安心している傾向がある」、「嫌われることを極度に怖がる人は、今の自分を好きになれず、自己評価が低いため他人からの評価を求める」、「自分と他人を比べて自信を喪失する人は、自分の短所にフィーチャーし、その短所と他人の長所を見比べている」など。心に突き刺さる感覚と同時に、自分という存在を改めて見つめなおすことができる。本質的な心構えや対処法も書かれており、それが自分の背中を少し押してくれた。
 無論、この本で言われていることを全て受け入れ実践することは不可能である。この本のなかで自ら反省し受け入れなければならないと感じた処方箋を選ぶことも、大事なのではないか。


『女の人間関係はめんどうなのよ 人付き合いの処方箋』


DJあおい著 株式会社KADOKAWA 2018
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/NII/BB26020693

図書館長賞

堕落すること。それは考え、成長すること。


 「人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない」この言葉を私なりに言い換えるとこうだ。
 「人間は生き、人間は考え、行動する。そのこと以外の中に人間を成長させる近道はない」
 私がこの本を手に取った理由は、ある東大生が、「現代人こそ読むべき本」と主張し紹介していたからだ。私はその真意を探るためにこの本を読んだ。
 戦争中、猛火の中ただ逃げて生きる人々は素直の運命の子供だったそうだ。ただ逃げて生きるだけ、運命に従順なだけ。つまり、人々は何も考える必要がなかったのだ。考えることがないほど気楽なものはない。私もそう思う。だからこそ著者は、人間は堕落しなければならないと言った。堕ちきり、初めて自分自身を発見し、考え、救おうとすると。この本での堕落とは、人間が元から備えている『考える』ということだ。堕落しないということは何も考えず、ただ従順に従うということだ。つまりは指示待ちだ。
 現代、学生や社会人で指示待ち人間が多いことはよく耳にする。その方が楽だからだ。しかし自身で考え、実践しなければ人は成長しない。考えることをやめてはいけないのだ。東大生はこのことを主張したのではないか。
 残りの学生生活、私も考えることを絶やさず行動し、自身が成長できるよう過ごしていきたい。


『堕落論』


坂口安吾著 角川書店 2007(角川文庫)※
 (c)2016 朝霧カフカ・春河35/KADOKAWA/文豪ストレイドッグス製作委員会


※本学所蔵は、日本図書センター 1990(近代文藝評論叢書)

配置場所:B1書架 請求記号:904||K||11
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB00058492

紀伊國屋書店賞

真夜中の世界を生きる


 この本の登場人物は、すべて真夜中にいる。
 昼間の大きな光が消え去った闇の中で、信号機のように、つらなる街頭のように、走り去る車のランプのように、彼らは何処に帰るのかも、どうすればいいのかも分からず、もがきながら深夜の暗闇の中を彷徨って、光のように生きている。

 彼らは尽く醜い。
 自分の意思を持たずに何も考えようとしない女、相手の気持ちを考えない自己中心的で身勝手な女、自分の力を過信し他人を見下す男、浮気をする夫婦…
 
 彼らはきっと、気がついている。このままではダメだということに。変わらなければいけないということに。
 それでも、気がついているにも関わらず、目を逸らして、蓋をして、酒を飲んで、逃げて、逃げきれなくなったら泣き出すのだ。

 そんな醜い人間達の生きる姿を見て、私の心は鬱々とし、何度も読むのをやめたい気持ちになった。しかし、最後まで読むのをやめることは出来なかった。

 彼らが足掻く姿は、酷く醜いが同時に美しいのだ。
 夜の街の、切れかけのネオンライトが点滅する様を綺麗だと感じるように。
 彼らの姿は、私の心を掴んで離さなかった。

 きっと、今の私は彼等と同じように真夜中にいる。
 逃れられない暗闇の中で、それでも光を探して歩かなければいけない


『すべて真夜中の恋人たち』


川上未映子著 講談社 2011
配置場所:2階書架 請求記号:913.6||K
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB01052515


優秀賞

少し変わった言葉遊び


拝啓、この文章の読者様。
 貴方はこの文章を読んだ後、この本を読みたくなるだろう。この本というのは、レーモン・クノー著、朝比奈弘治訳の『文体練習』と言う本だ。それは、漫画でもなく、小説でもなく、「バスに乗った時に変わった男性がいた」と言う場面から始まる文章を、様々な文体で表す、と言う本だ。様々な文体と言うのは、ええと、90くらい……? いや、もっとあったかな……? ああそうだ、102の種類だった!
 この本は、フランス語の『exercises de style』と言う本を日本語訳したもので、縦21.4センチメートル、横13.2センチメートル、厚さ1.7センチメートル、計195頁からなるクリーム色をしている本だ。
 102の文体から例を挙げると、『メモ書き』や、『客観的』、『アナグラム』から『ちんぷん漢文』という遊び心があるものまで。なんて面白い本なのだ! 全く、どうゆう事だ、頁によっては文章が傾いていたり、文字が反転していたりして、まるで印刷ミスじゃないか!
 そんな、有驚思的で、1頁にある文字数があまり多くないこの本は、頭の悪いチンパンジーの様な、本を読むのが苦手な人でも楽しめそうだ。
 さて、この書評の中に、『文体練習』で使われた文体が幾つあったか是非とも探してみてください。きっと貴方も、様々な文体で表された文章に心躍る事でしょう。
恐惶頓首。


『文体練習』


レーモン・クノー著 朝比奈弘治訳 朝日出版社 1996
配置場所:B1書架 請求記号:807.9||Q
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB00087302

優秀賞


「非人情」がもたらした俗世間のすすめ


 『苦しんだり、怒ったり、騒いだり、泣いたりが人の世にはつきものだ。余も三十年の間それをし通して、飽き飽きした。』夏目漱石の『草枕』の主人公(画工)はこうした「人情」に煩わされない態度、すなわち「非人情」を求めて、俗世間を離れて山道を登り、温泉宿に泊まる。しかし、この作中における彼の独白は、そんな俗世間を生きやすくするためのヒントになるのではないか。
 冒頭の『智に働けば角が立つ』から始まる文が有名であるが、単に「人の世」を否定しているわけではない。先述した人情も、余裕のある第三者の視点の地位に立つことで、小説や芝居の世界の出来事と同様に、感情的にならずに冷静に捉え、思考することができ、そして「おもしろい」と感じることができるのである。この主人公も旅の道中出会った人々を、山や動植物といった自然や、絵画のような芸術品と同様に捉えようとしている。そうして彼の目を通した人情ドラマは、日露戦争などに関する暗い話題であるにもかかわらず、どこかユーモラスな会話として描かれているのである。
 私たちは普段、物事を感情的に捉えがちである。勿論それは必要なことでもあるだろう。しかし、そこから『間三尺』離れた視点を持つことで、心を豊かにしたり、住みにくい人の世を住みやすいと感じたりすることができるのではないか。


『草枕』


夏目漱石作 改版 岩波書店 1972(岩波文庫)
配置場所:2階書架 請求記号:091||I||N.S
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB00048961

優秀賞

命を燃やして


 「生きる」とは何だろうか。富を得ることか。名声を得ることか。誰しも一度くらいは考えたことがあるのではないだろうか。私は彼らに、彼らなりの「生きる」ことを教えてもらった。
 時は1830年頃。彼らは「時代」「他人」「自分自身」と闘っていた。死の恐怖に涙を流し、病気で消えゆく友の命の灯を濡れた目で見送り、理不尽で卑怯な行いには「勇気」の力を振りかざし敵対していた相手には勇敢に立ち向かった。「生きて故郷へ帰る」という誓いを胸に。現代社会ではあまり身近ではない。それだけこの約200年で文化は豊かになり環境は整えられていった。しかし、彼らが持っていたものを私たちは持っているだろうか。
 時代は異なり、私たちは彼らのように命を懸けて拳で語り合う事や本気でぶつかり合う事は非常に難しい。意見の違う他人とは距離を取りたがり最悪寄って集って一人を大勢で攻撃し始める。彼らはそれを卑怯というのだろう。
 彼らは「生きて故郷に帰る」という強い誓いが「生きる」ことだったのだと私は思う。そのために涙を流しても挫けてしまっても、仲間と共に「勇気」を奮い命を燃やした。彼らにあって私たちにないもの。それはきっと「立ち向かう勇気」なのだろう。






『黒い兄弟』


リザ・テツナー著
酒寄進一訳 上・下
あすなろ書房 2002
配置場所:2階書架 請求記号:943.7||T||1
配置場所:2階書架 請求記号:943.7||T||2
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB01090631

優秀賞

物語の基礎を知る


 物語を作るにはどうすればいいか?一度、物語を作ろうとする人ならば誰しもが考えることだろう。物語に重要なものは何か?どう進んでいくべきなのか?そんな「物語」を「物語」たらしめるものを作り上げ、その自身の物語る力を鍛え上げるのがこの本だ。
 全体で二部構成となっており、第一部では、神話や民話の構造から分析された物語論をもとに漫画、アニメ、映画、ノベルズ、それらすべてに共通するストーリーの文法を学ぶことができる。そして、第二部では、第一部で説明した物語の文法をもとにストーリーを作るための30のQ&Aを記述形式で行うことで、実際に物語のプロットを作成する。
 これだけを聞けば、物語を制作するだけの本だと思われてしまうかもしれない。しかし、この本にはもう一つの使い方がある。それは既存の物語を研究するにあたって、構成を知るために活用することができるというところだ。自分が好きな作品が、第二部におけるストーリーを作るための30のQ&Aにストーリーのどの部分が当てはまるのか。それを記述していくことで、その作品の物語構成がはっきりと分かってくる。
 物語を作るにあたって、どんな物語にしようかと言う好奇心。自分の好きな物語はいったいどんな構成になっているのかという探求心。その両方を得ることのできる本です。 


『ストーリーメーカー : 創作のための物語論』


大塚英志著 株式会社KADOKAWA 2008
(アスキー新書)
配置場所:3階教科書 請求記号:901.3||O
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB01052942

優秀賞


記憶と記録と


 記憶とは、大脳辺縁系の海馬と呼ばれる場所で作られているが、コンピューターのハードの中にデータとして保存された記憶は、果たして記憶なのか、それとも記録なのか。
 作中では、膨大な量の人の記憶の空間を海だと例えているが、確かにそうだと納得したものだ。海の中をメッセージボトルが漂い、人の意思によって開けられたり、時間の流れにより蓋が開いてしまったりする。メッセージボトルの中には様々な想いが詰まっているが、勝手に蓋が開いてしまった為に、届く事の無かった想いは、一体どこへ行くのだろうか。忘れてしまった大切な記憶が入ったメッセージボトルや、忘れてしまいたかった残酷な記憶が詰まったメッセージボトルが誰かの手で開けられた時、それを流した本人は何を想うのだろうかとても興味深い。
 記憶≒自分だとするのであれば、記憶を信じられなくなったら、一体何を頼れば良いのか。ストーリーを読み進める内にそんな問いかけが読者の脳裏を過る。そう考えると、記憶をデータとして記録する事は、心の拠り所を得る為の手段として適当な選択肢なのかもしれない。しかし、そうまでして記憶を守る事が本当に大切なのか、いま一度自分の心に聞いて欲しい。


『記憶の海』


松田奈月著 講談社 2010
配置場所:2階書架 請求記号:913.6||M
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB01035275

優秀賞

人が人を裁くことの重み


 人が人を裁き、死刑が人の判断で、人の手によって行われていることについて、私はこれまで当たり前の事であると思い、深く考えたことはなかった。ひどい事件のニュースが流れると、私たちは「この人は絶対に死刑にしたほうが良い」などと簡単に口にしてしまう。本書は、日本の政治的・社会心理学的背景から、冤罪や犯罪抑止などの観点を踏まえ、犯罪に対する処罰はどうあるべきなのか、人が人を裁くことの恐ろしさ、切なさをどう考えていくべきなのかを論じている。本書を読み進め、私が裁判員制度で死刑を判断する立場なら、一人の人間を死刑にできるのか、凶悪な犯罪者は必ず死ぬべきなのかと悩んだ。犯罪者が死刑に処されれば、犯した罪や被害者のつらい記憶や憎しみが消えるわけではない。実際、世界には死刑制度がない国や廃止した国も多くあり、犯罪者が一生をかけて罪を償い生きている。そこには「人が人を裁くこと」への謙虚な姿勢がある。
 人が殺された時、私たちは「かわいそう」という感情を抱くのに、犯罪者の死刑が執行された時にはどこかすがすがしい気持ちになる。この矛盾に抱く複雑な感情と、死刑制度の在り方について向き合うことが新たな一歩に繋がると信じたい。


『人が人を裁くということ』


小坂井敏晶著 岩波書店 2011(岩波新書)
配置場所:2階書架 請求記号:090||I||1292
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB01040062

優秀賞

よりよく生きる


 「どうしても熱を伴わない。」青年期に誰もが感じるであろう、虚無感。それなりに現状が見えてしまうから、自分がさみしい奴だと分かる。ジェイクとブレットは、その中でなお、享楽を求めていました。それもみじめさをわかっていながら、です。
 時代や国は全く違いますが、現代の若者と通ずるところがあります。望んでもリスクを恐れ踏み出せない。やることすべてが気まぐれで、結局は手元のもので妥協する。それでも夢を捨てられずずるずると引きずり、どんどん先が見えなくなる。どうやら近年、先が見えないという理由で自殺する若者が多いそう。
 本書では、ジェイクとブレットは享楽を得るため、情熱の国スペインへ向かいます。しかし、結論から言ってしまえば、彼らの望むものは得られませんでした。それでも彼らには閉塞感はなく、それどころかある種の幸せがあったように感じました。目標を達成できずに、なぜそれを得られたのでしょう。
 最後まで読んでいただければわかりますが、彼らは諦められるようになったのです。そうすることで、目の前にあるものの尊さに気が付けました。だから幸せになれたのです。この本からは、若者たちの姿を通して、上記以外にも多くのことを感じさせられ、学びました。その一つが、ダメな人間なりの、素晴らしい生き方でした。


『日はまた昇る』


ヘミングウェイ著 高見浩訳 
新潮社 2003(新潮文庫刊)


※本学所蔵は、岩波書店 1979(岩波文庫)

配置場所:2階書架 請求記号:091||I||H.E
所蔵詳細:https://opac.std.cloud.iliswave.jp/iwjs0013opc/BB00048758

総評

審査委員長/基礎・教養教育センター教授
師玉 真理


 “文は人なり”というけれども、任意にどんな本を選んで読み、そこに何をみいだすか(思考世界を広げる固有の“鍵”)、という事も“人”を表します。今年度とりわけ驚いたのは、入賞者のみならず殆どの応募作品に、そうした“鍵”を孕む“光る一行”があったことです。まさに神奈工生の素敵な“人なり”を示してくれた本当にいいコンテストだったと思っています。



図書館長/ロボット・メカトロニクス学科教授
小川 喜道


 読書コンテストも5回目を迎え、応募件数こそ昨年には及びませんでしたが、これまで以上の盛り上がりをみせていました。発表会は、後期ガイダンスの5限目ということで、学生の皆さんもまだ夏休み気分が残っていたと思いますが、多くの方が図書館1階の会場にお越しくださり、その後の表彰式・懇親会も楽しく行われました。あちこちで、にぎやかな読書談義が行われ、また、教員とのホットな交流の機会が持てたのは、今回の大きな収穫だと思います。
 応募者一人ひとりの原稿から見えてきたのは、自らの生活を振り返ったり、あるいは将来を展望したり、あるいは社会に対する厳しい視線を投げかけたりする真摯な姿勢です。当大学に学びながら、読書を通して人生を見つめる、そのような機会をこれからも多くの学生の皆さんにもっていただきたいと願っています。そして、来年の読書コンテストへの応募を心待ちにしております。