「それしかないわけない」で広げる選択肢

第43回(令和5年度)
全国高校生読書体験記コンクール入選
村上音さん(新潟県立高田北城高等学校)


(取り上げた書名:『それしかないわけないでしょう』/著者名:ヨシタケシンスケ/出版社名:白泉社)

 いきなり質問させてください。「みなさんは、イヌとネコのどちらが好きか聞かれたらどう答えますか。」
 私が『それしかないわけないでしょう』という本に出合ったのは、小学六年生の時でした。妹がまだ小さかったので、読み聞かせ用に、と両親が購入し我が家にやってくることになったこの絵本。表紙の絵の可愛さと当時周りでとても話題になっていたところに惹かれて、私も小学六年生ながら絵本を読んでみるか!という気になり、表紙のページをめくりました。未来の世界が大変なことばかりなんだとおとなが言っていた、という話をお兄ちゃんから聞き、主人公の女の子は心配になっておばあちゃんに相談しに行きます。そして、ある言葉を教えてもらうのです。その言葉を聞き、おもしろくなってきた女の子は、毎日ウインナーの未来や毎週土曜日はクリスマスの未来などいろんな「未来」を考えます。という哲学的でユーモアたっぷりの楽しいお話なのですが、当時の私の心には、この絵本の題名やメッセージ自体があまり響くことなく終わりました。
 そこからしばらく経ち、受験生となる中学三年生への進級が近づいた、二年生の春休みになりました。私はいい加減進路を決めなければならないと思い、高校について調べました。絵を描くのが好きだった私は、美術系の仕事に就きたかったことや、当時仲の良かった県外に住んでいる友達が通っていたことから、そのような高校への憧れを強く持っており、漠然と美術系の学科のある高校への進学を考えていました。しかし、いざ調べてみると、残念ながら美術系の学科がある高校は上越市にはありませんでした。市外や県外の高校となるとやはり進学は難しいだろうと家族から反対され、行きたい高校に行くことができないとわかった私はとても落ち込みました。
 中学三年生の春になりました。特に進学したいと思う高校が決まらず、勉強へのやる気がなかなか起きませんでした。進路のことを考えたくなくて、一度現実逃避兼リフレッシュのためになにか好きな漫画でも読もうと思い、本棚へ向かいました。すると、そこには昔読んだあの絵本がありました。進路にとても悩んでいた私は、『それしかないわけないでしょう』というタイトルに惹かれて、再びその絵本を開きました。
 そこには、心配する女の子がおばあちゃんから教わった「ある言葉」が書かれていました。
「だーいじょうぶよ!未来がどうなるかなんて、誰にもわからないんだから!おとなはすぐに未来はきっとこうなるとか、だからこうするしかないとか言うけれど、たいてい当たらないのよ。おとなはよく、これとこれ、どっちにする?とか言うけれど、どっちも違うなーと思った時は、新しいものを自分で見つけてしまえばいい。ふたつとかみっつしかないわけない。未来はたくさんあるんだから!それしかないわけないじゃない!」
私はこの言葉がすごく心に残りました。その時の私は、美術系の学科のある高校に進むことばかり考えていました。それしかない、と思い込んでいました。しかしこの言葉から、絵に関わる仕事に就くために、そこまでこだわってそのような学校に行く必要はないのではないかと改めて気づかされたのです。「それしかないわけないんだから。」
 さて、ここで最初の質問をもう一度させてください。「みなさんは、イヌとネコのどちらが好きか聞かれたら、どう答えますか。」私はイヌとネコどちらも好きなので、「どっちも!」と声を大にして答えたいです。この本から、それしかないわけない。第三、第四の選択肢があってもいいと学んだからです。
 私は、この絵本を読んでから受験勉強のやる気を出してなんとか高校にも合格し、今は美術系の大学を目指すつもりでいます。もちろん選択肢の数は二つでも三つでも四つでもない、無限です。美術系の大学に行かなくとも、美術系の仕事に就くための道はたくさんある。そしてたとえ美術系の仕事に就かなかったとしても、美術の道を目指したという経験が活かせる場があるかもしれない。もしかしたら全然違う機会があって、俳優として活躍しているかもしれないし、昆虫博士になって新種のカブトムシをたくさん発見しているかもしれない。お菓子作りの才能に目覚めてパティシエとして海外で評判のお菓子屋さんをオープンしているかもしれないし、動画クリエイターとしておもしろ動画を世界に配信しているかもしれない。作中のおばあちゃんが言った、「それしかないわけない」という言葉を忘れずに、視野を広く持ち、その先どうなるかを恐れないで道を選びとっていきたいと思います。
だって未来は誰にもわからないんだから。

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