かがみのそとでも
第41回(令和3年度)
全国高校生読書体験記コンクール県優良賞
矢久保葉月さん(私立新潟清心女子高等学校)
(取り上げた書名:『かがみの孤城』/著者名:辻村深月/出版社名:ポプラ社)
ふつう【普通】
- その類のものとしてごく平均的な水準を保っていて取り立てて問題とする点がないこと。
- その類のものに共通する条件にかなっていて特に変わった点が認められないこと。
「新明解:国語辞典」
三年前の誕生日、私はこの本に出会った。
螺鈿のように輝くタイトルと鏡を覗く少女その向こうで首をかしげているオオカミのおめんを被った女の子。少し変わった表紙に惹かれて、私はすぐに本をひらいた。
この本の主人公、こころは中学生でとある理由で不登校になってしまう。そんな時、自分の部屋の鏡が光り、別世界へと繋がる。その中で自分と同じ中学生達と出会い、交流を重ねていく。
読み終えた時、とても苦しかった。私の抱いた感情と、主人公の抱く感情がかなり似ていたから。平日の昼間、誰にも気づかれないように家の中で息をひそめている自分と。
そんな本の出会いからしばらくして、私は地元の中学校から特別支援学校へと転校した。
今思い返してみると、私が特別支援学校で過ごした日々はこの物語と少し重なる部分があることに気づいた。
こじんまりとした学校で生徒の数がとても少なく、私の在籍していたクラスも十人程しか居なかった。のびのびとした環境で、先生方の温かい支援をうけながら徐々に教室に通えるようになっていた。
物語の中と同じで、互いにどんな事情でここに来ているのか問いかけることも自ら語ることもなかったけれど、いつの間にか静かな教室の中で認め合い、それぞれの居場所を築いていた。
それまで、私は自分だけが普通でないと思っていた。教室という場所は居心地が悪く、友達と遊んでいてもどこかぎこちなかった。
いつもそんな自分に嫌気がさしていた。でもその気持ちが些細なものに感じてしまうくらい、学校の中は個性に満ちていて実に多様で、その空間はちいさなものだったけれど、見えている世界はとても広かった。
「学校に通えない、溶け込めない、うまくやれない―、今目の前にいる子たちの抱える事情はそれぞれ違う。一つとして同じことはない。」
物語の中で孤城のメンバーであるアキはこのことに気づく。私もなんとなくそのことは理解しているつもりでいた。でも、改めて考えてみると本当にそうなのだった。一人ひとり今まで育った環境も経験も違う。そしてそれを〝普通〟という言葉に閉じ込めてしまうのはなんだか窮屈に感じた。一度そう思うと自分の視野も広がり、自分のことを認められるようになっていた。教室に溶け込めなくても、友達となじめなくても。
物語のエピローグ、アキはフリースクールの先生になる。そして彼女はかつて心を通わせた主人公、その仲間達と再会し、彼らの支えとなっていく。物語の結末は、私の心の中にひそかに芽生えていた想いをつついた。
「今度は私の番だと。」
子ども達を支える仕事はたくさんある。どれも大変だと思う、だが魅力に溢れている。
苦しい時、悲しい時、どんな時も本に助けられてきた。それは今も変わらない。底知れない本の魅力を伝えるために、私は学校図書館司書教諭になろうと思う。本を通して様々な悩みや葛藤に揺れる子ども達を支えたい。
いつか私の選んだ本が誰かの大切な一冊になりますように。