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サポートスタッフのイチオシ本
私がつかんだコモンと民主主義
身近な地方自治を知り、声を上げ、政治に参加したくなる本 私が子どもの頃、デモのニュースを見たり、学級の自治を前提とした”学級会”があったりと自分の意見を表明することは身近にあった気がする。その後”若者の政治への無関心”が言われるようになったが、インターネットやSNSが普及すると、自分の意見を広く表明する人が出てきた。しかしその匿名性がむしろ問題になっていることや、建設的な議論に発展せず、違う意見と折り合いをつける力がなくなってきているようで、私は民主主義が遠ざかってしまった気がしていた。 さて、この本の著者は現杉並区長。聞きなれない”コモン”とは”公共財”のこと。水、電力、住宅、通りや広場、医療やケア、空気、図書館等は、すべてみんなのものであると同時に誰のものでもないコモンズである。コモンズは市場の法則ではなく、政治の中心に置いて、下からの民主主義で運営すべきと主張する。自身が関わってきた水道運営と海外生活を通し、「水の権利と自治」を守ることは、民主主義と深くつながっていることに気づく。またロストジェネレーション世代にあたり、日本の労働環境の悪化の背景にある”新自由主義”を打破したり、女性が不利な現状を変えるのに、やはり民主主義の手法が有効だと訴える。著者は、次の様に女性たち、若者たちに行動を起こす大切さを説く。「あきらめないで、言葉にし続ければ共有と共感の連鎖をつないでいける。おかしいと思うことを勇気を持って話す、体験を共有する、世界で何が起きているか耳を傾ける、想像する、勉強し続ける、学習会を開く、…当たり前の日常で自由や正義を希求していく。自分の尊厳と他人の尊厳がつながっているという想像力が育っていく。」と。そして自身も環境保全と社会正義を、民主主義を深めることによって実現したいと言う。 私は埼玉に引っ越してきたのだが、生活に根付いた疑問を話し合える仲間を見つけるのにずいぶん時間がかかった。15年程前、子どもの居場所づくりを始めた人に出会い、私も仲間に入れてもらい、自分の居場所にすることができた。それをきっかけに、地域や行政を知ることができ、公募委員になって発言をしている。またスマホに買い換え、ライングループの中で、仲間に考えてもらいたい話題をこまめに発信している。と同時にリアルな話し合いの場の確保にも努めている。仲間内で考えをまとめ、言葉にできるようになると、違う意見の人と居合わせても以前ほど怖くなくなる。このような経験をもっとみんなにも経験してもらいたいと思う。 私は以前から、政治への無関心は中学の『公民』の授業で、『地方自治』を具体的に教えていないからではないかと思っていた。この本を読み、政治への参加の仕方を知り、面白いと感じて関心を持つ人や行動する人が一人でも増えてくれることを願っている。(S.S) | ||
著者・出版社・出版年 | 岸本聡子・晶文社・2022 | |
請求記号 | 309/ワ |
ジェンダーレスの日本史
伝統的、日本古来という思い込みを捨て、歴史を知ることから 著者の大塚ひかりは、『源氏物語』や『古事記』『東海道中膝栗毛』などの古典を題材にしたエッセイを執筆してきた。”ジェンダーレス”とは、男だから、女だからと区別しないことをいうらしい。この本では、中世までの文学や随筆、日記などから引用し、日本の性の多様性の歴史が書かれている。 さらに性をテーマに子どもや弱者に対する人権意識の薄さを調べ上げ、これからの社会はどうあるべきか投げかけている。著者によると日本は男女の境があいまいで、中世まで性の規範意識が緩かったという。その背景には家族の形と社会構造があるようだ。そして私たちが授業で習わなかった中世の庶民の生活が興味深い。実はシングルマザー(未婚で出産)や独身が多く、結婚はお金がかかるため、身分の高い一部の人だけのものだったようだ。また、核家族も多く、日本古来の伝統は夫婦別姓・別墓(実家)だったそうだ。明治の初めまで、離婚・再婚も多く、女性に貞操を求めないとも書いてある。何だか今の日本の状況に近い気がしてくる。私たちが”家族の在り方”と思っているものの多くが、明治民法以降のものだと、この本を読んで確認できた。 そして最後の章に、「軽んじられた弱者の『性』と『生』」という項目があり、ネグレクトや子殺し、性虐待の多さは昔から見られ、日本社会に良くない伝統として残っていると指摘している。著者は、この最後の章を書きたくてこの本を書いたのだと思い至った。「子どもは親の所有物」という考え方は、昔から見られ、親の都合で簡単に嬰児を殺してしまう。親子心中の多さや戦後まで子どもを売ることができたこと、昨年削除された”懲戒権”まで、この考え方が根強く見られると問題にしている。さらに、雇い人の女性(幼女も含む)に対する強姦の多さや仏教界の男色の闇の歴史にも触れ、いつの時代も身分の低い者・立場の弱い者にとっては性は「凶器」になると強調している。 著者が言うように「日本の文芸はジェンダーレスであふれている」。私たちはあまり意識していないが、性別があいまいであることから生まれる表現は、平安文学から漫画・アニメに至るまで、豊かな「日本独自の」文化であり、世界の人々を魅了しているのは確かだ。 でも著者はそれと切り離して「最後にこれから性や家族とどう向き合えば、もっと晴れやかな気持ちになれるかが課題」とまとめている。 現在生きている人たちの声を反映した性の多様性を含めた『人権の尊重』について、人権意識が高まった今、私たちは考え、法律を変えるなどの行動に移し、不利益を被る人がいなくなるようにしていかなければならないと思う。(S.S) | ||
著者・出版社・出版年 | 大塚ひかり・中央公論新社・2022 | |
請求記号 | 910.2/オ |
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