サポートスタッフのイチオシ本

With Youさいたまのボランティア「サポートスタッフ」が、With Youさいたま情報ライブラリー蔵書から選んだイチオシ本をご紹介します。

「男性によるトークセッション」テーマの本


 10月5日(土)、With Youさいたまでは、ライターの武田砂鉄さんと精神保健福祉士/社会福祉士の斉藤章佳さんをお迎えし、男性によるトークセッション「『男らしさ』と男尊女卑依存症社会」を開催しました。

 トークセッションに参加したサポートスタッフから関連図書をご紹介します。

 

 

 

 

 

①子どもへの性加害 : 性的グルーミングとは何か

②性暴力の加害者となった君よ、すぐに許されると思うなかれ : 被害者と加害者が、往復書簡を続ける理由










 
  
 

子どもの身近にあるSNS上の性的グルーミングとは何か

 私は地域で「子どもとメディアのより良い付き合い方」を啓発する活動をしており、最近は「SNSを介した子どもへの性犯罪が増加している現在の状況をどう啓発すればよいか」という点が目下の課題と考えている。

 本書には、犯罪者が子どもを手なずける「グルーミング」という手口がいかに巧妙かが実際の事例を紹介しながらわかりやすく書かれている。

 現代の子どもたちは、成績や生活のことなど家庭や学校で、「きちんとしていること」「向上すること」を求められるので、肯定されることが少なく、「自己肯定感が低い」と言われているが、その手口はベテランのカウンセラーのように粘り強く、子どもの愚痴や悩みを「そうだよね。わかるよ。」と否定せず聞き続け「この人は信用できる人だ。」と思い込ませるというのである。

 今や多くの子どもたちの手のひらにあるスマートフォンというツールは簡単にSNSで見知らぬ人とつながることができる。性加害者は、そんな子どもたちのSNS上の「つぶやき」を「網を張って待っている」というのである。男の子も性被害にあう可能性があり、大丈夫とは言えない。

 子どもを持つ親だけではなく、子どもに関わる仕事や活動をしている人には「子どもを性被害から守るため」に本書をぜひ読んでほしいと思う。 (N.H)

 

相反する立場での対話から・・回復の道を探る

 登壇した著者自身が紹介したこの本は、クリニックの加害者臨床のプログラムの中で、加害経験のある男性達と性被害経験のあるにのみやさんとの対面での話しあい・往復書簡の記録である。

 加害者には、性暴力・性加害行動を選択してしまう生き方から脱却する責任がある。ただ、被害者と加害者という真逆の立場では、回復の意味や道のりが違いすぎる。被害者にとっては、「何故、私だったのか?」という問いの回答を求めることも困難を極める。被害後の一生を塗り替えられてしまう無念さ・やりきれなさは、筆舌に尽くしがたい。「被害者に終わりはない。すぐに許されると思わないでくれ。これからどう生き直すのか、何故こんな罪を犯したのか、どれほどの人の人生をなぎ倒したのか等、自問自答を続けて欲しい、性依存症からの回復を目指し、真摯に“今ここ”と向き合い生きてほしい」という、にのみやさんの言葉は重すぎる・・。

 それまでは、被害者のその後も自らのことも知らなかった加害者が、にのみやさんの問いかけで自分と向き合い、内面を言葉にしていき、更に新たな気づきを言語化していく。長期間にわたり何回も何回も対話を続けていることで、ようやく真意とか核みたいな部分が見えてくる。

 私達は、性犯罪を個人の異常な性癖と矮小化して、目を逸らしていないだろうか・・。被害者にも落ち度があったのではという、性暴力に対する社会の誤解や偏見、もしくは自己責任論が、被害者の声を封じ込めてはいないだろうか・・。

 斉藤さんの「痴漢になろうとして生まれた人はいない」という言葉と、育ちの中で身につけた加害者性は学ぶことでそぎ落とせるという視点は、私が仲間たちと取り組んでいる包括的性教育とリンクする。

 支援する立場の者だけではなく、誰もが当事者になりうる存在だという思いからも、多くの人に往復書簡でのやりとりを、直に受け止めてもらいたい。わかった気にならず、学び続け、身近な人達と対話で深めあえたらと思う。(K.S) 

 ①

著者・出版社・出版年

斉藤章佳/著、幻冬舎、2023

 

請求記号

367.6/コ
     
 ②

著者・出版社・出版年

斉藤章佳・にのみやさをり/著、ブックマン社、2024

 

請求記号

368.64/セ

 

女子鉄道員と日本近代

女性の人権を女性鉄道員の歴史から考える

 私の父は鉄道で働いていたので思わず手に取った。著者は乗り物の歴史を得意とするライター。日本の鉄道の150年の歴史を見ていくと、日本の近代化と重なり特に労働者の人権と女性蔑視という点で今日につながる問題が見え、私も興味深かった。

 鉄道は、安全な運行と顧客サービスの両輪で成り立つが、自動化・機械化される前は多くの人手が必要だった。著者がまず注目したのは、当初から人件費を抑える発想があり、厳格な職位で賃金が設定されたこと。そこで女性や外国人のほか、男性でも低学歴や未成年は低賃金に抑えられ、都合よく雇われていたことが分かったという。命の危険と隣り合わせの現場で、働く人の人権が守られてこなかったことに著者は憤りを感じていて、私も今の時代に通じる労働問題だと思った。

 そもそも鉄道史において女性に関する記録がとても少ないので、著者は新聞記事を当たっていったという。そこで見えてきたのは、雇用者の女性蔑視と共にマスコミの女性蔑視、そしてパターナリズムだという。さらに注目したのは、サービスの分野で期待されたのが『女性らしさ』と物珍しさであること。改札でのトラブル解消という”感情労働”に必要だとして『やさしい、穏やか、緻密』を『女性特有』と期待されたようだ。つまりその反対が男性で、優位に立つという考え方がある、と著者は指摘する。また、物珍しさには性的なまなざしや好奇心も含まれ、話題性をも期待された。戦時中は男性の代わりを要求され、戦後は限られた職種だけ、或いは不安定な雇用があったのみだ。

 1986年に施行された男女雇用機会均等法を機に、女性労働者が注目されたが、いまだに『女性らしさ』や見た目を期待されている。著者は、企業努力だけでなく、社会が変わらないと女性の働きにくさは解決できないと訴える。そして女性鉄道員をめぐる問題は今日の問題でもあり、また未来に向けて考え直していかなければいけない問題だと結んでいる。

 様々な鉄道関連の図書が出版されているが、働いてきた女性の人権に光を当てた本書は一読の価値があるのでお勧めしたい。(S.S) 

 

著者・出版社・出版年

若林宣/著、青弓社、2023
 

請求記号

686/ジ

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