サポートスタッフのイチオシ本

 With Youさいたまのボランティア「サポートスタッフ」が、With Youさいたま情報ライブラリー蔵書から選んだイチオシ本をご紹介します。

家事か地獄か : 最期まですっくと生き抜く唯一の選択




本書1冊で生き方・老後・健康・環境・片づけ・お金の問題解決?方法満載!

 表紙を見た時、タイトルの『家事か 地獄か』から、家事がいかに地獄であるか…という流れになるのだろうかと思った。しかし「家事」と「地獄」の間にある「最期まですっくと生き抜く唯一の選択」という一文が気になってこの本を手に取った。

 本書の表紙をめくると著者の住まいの写真が目に飛び込んでくる。TVなし、冷暖房機なし(火鉢のみ)、冷蔵庫・洗濯機・フロなし、ガスなし(カセットコンロのみ)。そんな「なし」の連続の暮らしぶり。本書からどんな話が聞けるのか興味津々でページをめくった。

 大方の人は家事が嫌いである。アンペイドワークの代表であり、できれば存在してほしくないと思われている家事。著者自身もそうであった…。が、退職をきっかけにその思考は100%逆転した。それはなぜか。読み進めていくうちに家事問題は人生の問題―老後問題、健康問題につながっていることがわかった。家事がラクになる、ラクをすることが認知症問題につながっているという指摘は鋭い。私の親を顧みると、喜々として同居家族に家事を丸投げしていたが、今は気力体力が衰えてきている事実を突きつけられている。著者が伝えているとおり、「家事」をすること、自分のことは自分でやるということが、人生を生き抜くことであるのかもしれないと思った。

 また、本書では様々な提案をしている。モノへの執着・欲望を解消し、情報過多を自身でコントロールすること、だとか。著者の理想は江戸の長屋や修道女の暮らしときけば、テクノロジーが進んだ現代からすると時代と逆行していると思われてしまうかもしれない。だが、人間としての生き方、暮らしを考えるとそういう要素も必要ではないかと本書を読み感じた。

 他にも本書には有用な情報がさりげなくちりばめられている。著者の「ラク家事メモ」や片づけ類は参考になった。特に家事メモの「生ゴミ堆肥」は環境の面からも有効であり、ベランダコンポストを実践している我が家でももっと取り入れていきたいと思った。

 最後に、著者が伝えたかったこととは家事は無間地獄ではなく、どんな状況でも生き抜く家事力を一人一人が手放さずに持っておくということだろうか。「人生、家事力さえあれば何とかなる」と。

 読後、タイトルの解釈について自分は『家事(をするかしない)か(老後は天国か)地獄か』などと勝手に考えてみた。(I.Y)

 

著者・出版社・出版年

稲垣えみ子/著、マガジンハウス、2023
 

請求記号

590/カ

日本の中絶




もう妊娠や避妊の知識を科学的な視点で広める時代では?

 コロナ禍で見たテレビ番組で海外の避妊法を紹介していて、「日本は遅れている!」と衝撃を受けたのが、この本を読んだきっかけだ。著者は、自身が中絶を経験したことから、大学院で学び、中絶問題の専門家になった。女性にとって、妊娠のリスクは肉体的にも精神的にも大きい。望まない妊娠ならなおさらのことだと思う。にもかかわらず、日本では『安全な避妊方法と中絶』の情報にアクセスしにくい。避妊や中絶の話題がタブー視されるようになったり、それらの方法が海外から遅れをとってしまった理由が本書には書かれている。その背景にあるのは『パターナリズム』だと著者は指摘する。『パターナリズム』とは、温情主義・夫権主義とも訳される。「女性は自分で決められないから決めてあげる、という考え方。強い立場の人が弱い立場の人の意向に構わず、その人に代わって意思決定をすること」だという。私は以前から女性が意思決定するのを妨げている壁の正体がわからず、もやもやしていたのだが、今回まさしく「これだ!」と思った。しかもちゃんと名前が付いているではないか。例えば、自分の娘が結婚しないことを心配したり、独身の女性を「かわいそう」と言うのは、この考えもあるからなのか…。

 医師と患者の関係は今インフォームドコンセントが当たり前になっているのに、なぜか中絶は例外。中絶は『堕胎罪』に問われるので、女性が自分の意志だけで行えないって、どれだけの日本人が知っているのだろうかと考えてしまった。私が中学生の頃、10代前半の妊娠が社会問題になったが、同級生の女子の間で「中絶カンパ」が流行していたのを思い出した。お金も相変わらずかかるそうだ。どちらにしても女性だけが妊娠のリスクを背負っているようにしか思えない。

 この本は、WHOのガイドラインに沿って説明されているのでわかりやすいし、『科学的なものの見方』の大切さも感じた。女性や胎児の『人権』を守りたいという著者の思いが伝わってくるので、私もこの議論が活発になることを願う。2023年秋に経口中絶薬が導入されたが、今後の動きにも注目したい。若い世代が素朴な疑問として、この話題について情報や意見の交換をしているようで、こちらも期待大である。(S.S)

 

著者・出版社・出版年

塚原久美/著、筑摩書房、2022
 

請求記号

498.2/ニ

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