サポートスタッフのイチオシ本

 With Youさいたまのボランティア「サポートスタッフ」が、With Youさいたま情報ライブラリー蔵書から選んだイチオシ本をご紹介します。

日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? : 結婚・出産が回避される本当の原因




コロナ禍で家族の問題が注目される前から考察されていた少子化問題の本

 私は「Bookmark」で過去に著者の本を2冊取り上げたことがある。私はWith Youさいたまに通うようになって、子どもの頃から感じていたもやもやの正体が「家族社会学」の分野だと教えてもらった。著者は家族社会学の第一人者だ。私は今、自分の子が孫の子育てをしている様子を見ると、「今の親は大変だなぁ」と感じている。核家族化で家族の支援が受けにくく、夫婦のコミュニケーションがより必要になっているからだ。

 そんな中、私は「そもそも国に少子化対策があったのか」と思ってこの本を読んでみた。私がこの本で注目したのは、著者が研究の末にたどり着いたという「少子化の背景にある日本独特の結婚観・子育て観」だ。著者は、30年以上前に国は少子化政策に取り組み始めたが、取り掛かりも遅すぎたと言う。その関連で、「男女共同参画社会」の構築や「女性活躍推進」対策も同様に成果が見えないと言及している。そして「日本独特の様々な制度・意識」と経済状況の変化が少子化の原因と言っている。

 現状ではコロナ禍で少子化は加速した。問題は、結婚したいのに、子どもを持ちたいのに、踏み切れない理由が社会にあることだろう。私は日本の社会は失敗したらフォローがなく、チャレンジしやすい社会ではないとずっと思ってきた。著者も『あとがき』で同様のことを言っている。私は、まずは少子化の原因を解決すること、同時に社会全体で子育てする仕組を整えたり、介護と子育てを同時に抱えるダブルケアを支援する仕組を作らなければと考える。そうでないと子どもを産んだ人が後悔する社会になってしまうだろう。

 私は、著者の言う「日本独特の様々な制度・意識」は、自分が成人した40年前と何ら変わっていないと感じる。この分析をどう感じ、そしてどう行動するのか、ぜひ私以外の人に聞いてみたいと思うのが、この本をお勧めする理由である。(S.S)

 

著者・出版社・出版年

山田昌弘/著、光文社、2020(光文社新書:1067)
 

請求記号

334.31/ニ

未来をはじめる:「人と一緒にいること」の政治学




「私たちの中に潜在し明確化していないものを言語として表現すること」が未来への希望

 著者は東大教授(政治学)。この本は、コロナ禍前の2017年、豊島岡女子学園の中高生に5回の講義を行い本にしたもの。講義内容は大人が読んでも難しい。それでも私がこの本に注目したのは、私と同世代の男性である著者が、「人が自由かつ平等で、自分らしくいられる(民主主義の基本)ために」、話し合って自分たちの力で決める習慣(政治)を身につけよう、と若者に呼び掛けている点だ。未来は「私たちの中に潜在し明確化していないものを言語として表現すること」から始まるというわけだ。その「未来をはじめる」ミッションを一緒に担う仲間を増やしたくてこの本を書いたと言う。

 今回の講義は『人と一緒にいること』の面白さと難しさに気づきやすい女性に絞ってみようと女子校を選んだそうだ。日本人は議論が苦手だと私も思っていたが、さらに今の若者は人を傷つけたくない、傷つけられたくない、という思いが強いことに危機感も感じたようだ。私は正直、恵まれた環境にいる東京の私立の進学校の中高生が、どのくらい自分の周りの『困っている人たち』に気づいているだろうかと危惧していた。著者も、知識は持っている彼女たちに、まず社会の『枠組み』を考えさせ、次にボランティアに参加して、様々な人に接してその人たちが抱えている課題を知ってごらん、と呼びかけている。

 講義後の著者と生徒代表の座談会も収録している。ここで著者は、具体的に女性が社会的に不利である現状に触れ、生徒たちの本音を聞き出そうとしている。結果、生徒たちが政治を身近に感じられるようになったと発言し、著者は未来は明るいと安心したところで終わっている。

 座談会で著者は「人間は互いに話すことで変わるし、その過程が大切」と言っているのだが、私が一番共感したのがこの言葉だ。専業主婦だった時に『男女共同参画』に出会って気づいたことに、もっと早く気づいていたらと後悔している。成人年齢が18歳に引き下げられた今、私は子どもたちに民主主義を考えさせる機会の充実を訴えたい。私は地元で子どもたちの居場所を作る活動をしているが、語り場としても機能するよう工夫したいと決意を新たにしたところだ。

 コロナ禍を機に、様々な困難な問題を抱える若年女性が顕在化した。講義が行われた2017年当時よりも更に、自分の周囲の「困っている人たち」への気づきは必要かつ重要となっている。今こそ、多くの若い世代、そして周囲の大人たちに読んでほしい一冊である。(S.S)

 

著者・出版社・出版年

宇野重規/著、東京大学出版会、2018
 

請求記号

311/ミ

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