#本棚から一冊

#本棚から一冊では、With Youさいたま職員のおすすめ本を紹介します。

「第23回 With You さいたまフェスティバル講演会」テーマの本


 第23回With You さいたまフェスティバルは、2025年2月1日(土)~2月2日(日)に開催いたします。フェスティバルの最後を飾る講演会は、横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授の須川亜紀子さんを講師にお迎えして、「アニメ・キャラクターのジェンダー観~これまでとこれから~」と題して、2月2日に開催します。
 今回のBookmarkでは、この講演会にちなんだ図書をご紹介します。

 

アニメーション文化 55のキーワード

アニメーションは奥深い
 須川さんは、文化研究(アニメ、マンガ、2.5次元)、ジェンダー学、オーディエンス/ファン研究をされ、2020年から日本アニメーション学会の第4代会長を務めていらっしゃるアニメ研究の第一人者。当センターには単著、編著4冊を所蔵させていただいています。その中からアニメに詳しくない私でも特に興味深く読み進められたのが本書でした。

 特に「セクシュアリティ ‐アニメと性」の項は、お願いしているご講演のテーマにも通じる内容です。アニメに描かれるセクシュアリティについて、日本のアニメが性差別的と国内外から批判される理由やセクシュアリティ規範について分かりやすく書かれています。

 ご著書には、数多くの内外のアニメ作品が取り上げられ、論じられています。多くの人が幼いころから慣れ親しんできた物語やアニメ作品の登場人物の描かれ方 -顔かたちやセクシュアリティ等々- は、私たちに、社会にどんな影響をもたらしてきたのでしょう。講演会がより一層待ち遠しくなりました。

 

著者・出版社・出版年

須川亜紀子・米村みゆき編著、ミネルヴァ書房、2019
 

請求記号

778.77/ア

気になる本


 With Youさいたま職員がちょっと気になるテーマの本、話題になりそうな内容の本を紹介していきます。

ジェンダー目線の広告観察

ジェンダー表現の観点から広告を考えよう
 長年にわたって電車通勤していると、車内で見る広告での女性像の扱い方には思うことがある。「男は仕事、女は家事」といった性別役割を固定するような広告は減ってきたが、容姿端麗な見た目の美しさに価値を与えるルッキズムは変わっていない。むしろ性別や年代を超えて広がっているように感じる。不快に感じても、しょうがない、見なければよいのだから、と自分に言い聞かせてもいる。鬱陶しいスマホ広告も含めて、別に見たいと思ってない時に視界に入ってくる状況にだんだん馴化されてもいる。もちろん広告のイメージから影響を受けて、消費行動を取る自分もいる。

 本書は、アートや写真、ジェンダー研究者の著者が、広告を観察し、批評する一冊。対象となるテーマは、トイレのピクトグラムから考えるジェンダー表現、公共交通機関にあふれる美容・脱毛広告からみる女性像、脱毛広告やメンズコスメ広告に見られる「デキる男」像、日本における性感染症予防啓発広報の問題と海外の事例、東京五輪開催前から急増し始めたスポンサー広告、SDGs広告、広告業界のジェンダーバランス、若年層を狙うゲーム広告等々。読み進めていくと、広告が発信する情報に対して見て見ぬふりをしたままでよいのか、と問う筆者の声が聞こえるような気がした。

 本書を読んで痛感したことは、メディアが作り出す「らしさ」の煽りから心身を守るのは簡単なことではないが、忌避するのではなく、むしろしっかりと観察することの重要性である。受け手としていろんな感情(違和感も含めて)を表明し、言語化することが大事であることにも気がついた。他の人が広告についてどう感じているのかも知りたいし、感想を述べ合うのも面白そうだ。そう感じるに至ったことで、本書は、私たちがどのようにして他者とコミュニケーションをとっていくか、という問題を提起していたことにようやく気づいた。まずは、安心して感情や意見を交換する環境を作りたい。そうした機会を持つためにも、ぜひ多くの方に本書を読んでもらいたい。

 

著者・出版社・出版年

小林美香/著、現代書館、2023
 

請求記号

674/ジ

10代に届けたい5つの"授業"

未来を創る若者と一緒に考えるリアリティな授業  
 本書は、10代の若者に向けた5つの”授業”として、「ジェンダー」「貧困」「不登校」「障害」「動物と人との関係」をテーマに構成されています。各授業を担当する講師は、長年各テーマを研究し、現場で活動してこられた方々です。身近なエピソードを挙げながら、穏やかな文章で若者に語りかけています。”授業”は1限から5限までありますが、関心の高い授業から順に受けることもできます。

 どれもニュースで取り上げられる重要なテーマですが、本書が指摘しているとおり、実際に当事者と語り合う機会はとても少ないのではないでしょうか。そのため、学校で学ぶ機会はあっても、どこか他人事で、実際のところはよく分からないまま大人になってしまう、という可能性もあります。そして、このよく分からない状態を放置したままにしていると、SNS等で不確かな情報に遭遇した際にも影響を受けやすく、バッシングにつながる恐れもあるのです。

 各授業のおわりには、講師からの質問とさらに学びたい人のために関連図書の紹介が用意されています。この講師からの質問がとても興味深いものばかりで、大人でもすんなり回答できる人は少ないかもしれません。ぜひこの質問について、家族や友人と語り合ってほしいと思います。すぐには答えが見つからないかもしれませんが、それだけ複雑で難しい問題に日々苦しんでいる人が現実の社会にいること、もしかしたら同じ教室の中にもいるかもしれないことに気付き、考え続けてみてほしいです。

 未来を創る10代の若者と一緒に考えたいテーマがつまった一冊です。ぜひ多くの人に手に取ってほしいと思います。

 

著者・出版社・出版年

生田武志・山下耕平/編著、松岡千紘・吉野靫・貴戸理恵・野崎泰伸・なかのまきこ/著、大月書店、2024
 

請求記号

360/ジ

「親がしんどい」を解きほぐす

人生をコントロールするのはあなた自身です。
 私には、親との関係が悪く、親の言うことは絶対で、おかしいと思いながらも悩みつつ日々を過ごしている友人がいる。友人の話を聞き、あなたはできる限りのことをしてきた、あなたは悪くないと伝えてきたが、どんな言葉を掛けたらいいのか私自身悩んでいた。そんな時「『親がしんどい』を解きほぐす」の題名に惹かれ、この本を手にした。

 この本は、身近な事例を挙げながら、「親がしんどい」という気持ちを細かく分析し、対処法よりも自分を理解することに重きを置いた内容になっている。昨今、親と良い関係が築けず疎遠になっている人も多いとのこと。子どもにとって親は、関わることが必要不可欠だが、関わることで深い傷にもなり得る存在である。親との関係で、何かが変だと感じるのは、大人になったからこそ感じる思いで、自身のモヤモヤの成り立ちを知ると、癒しが始まることも分かった。しんどい気持ちを置き去りにせず、自身で肯定し労うことが大切である。

 この本には、気付きとなる言葉が多く書かれており、友人の大変な日々を考えながら読んだ。親との関係に悩んでいる人が自身を労い癒すため、手に取っていただきたい。また、親との関係に悩んでいる人が身近にいる場合も、ぜひ読んでいただきたい一冊である。

 

著者・出版社・出版年

寝子/著、KADOKAWA、2023
 

請求記号

146.82/オ

データから読む都道府県別ジェンダー・ギャップ : あなたのまちの男女平等度は?

 

地域の強みと課題を知ってジェンダー平等な地域づくりを
 世界経済フォーラムが公表する男女平等度の指標で、世界最低レベルに沈む日本のジェンダー平等。ただし、その指数が意味するのは日本の平均値であり、実際には日本の中でも大きな地域差が見られる。そこで、各地域ごとのデータとして可視化して、地域ごとの特色を浮かび上がらせて「見える化」したのが「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」だ。これは「地域からジェンダー平等研究会」が令和4年以降毎年公表しているデータである。

 研究会の研究者らは毎年3月8日の国際女性デーに合わせ、都道府県ごとの指数と順位を算出する。会の事務局である共同通信社がそのデータを配信し、加盟する全国の新聞社やテレビ・ラジオ局などを通じて公表する。地方各紙は配信記事と地元の課題を掘り下げた自社記事を一斉に掲載する。統計処理と情報発信という双方の強みを生かしたキャンペーンが年々広がりを見せ、都道府県ごとの課題が見えやすくなり、男女格差解消に乗り出す自治体も出てきている。

 本書は、この3年分のデータと国内外の現状、先進事例をまとめたものである。共同通信に設置されたサイトも素晴らしいが、出版によって、より多くの人たちが地元のジェンダー格差の現状を知るきっかけとなるであろう。なにより「世界最低レベルにある日本のジェンダー平等を地域から底上げしよう」という強い意志のもと、この3年間の地域や部局を超えたプロジェクトの取組と成果を知ることで、今度は私たち一人一人が地域で力を合わせて課題解決に取り組んでいかねば、という意欲が湧いてくる。自治体、学校、企業、個人など、多くの人たちに活用してほしい一冊だ。

 

著者・出版社・出版年

共同通信社会部ジェンダー取材班/編、岩波書店、2024
 

請求記号

367.21/デ

※情報ライブラリーで新たに受け入れた図書はこちら→新着案内