Bookmark Vol.65

Bookmarkとは、情報ライブラリーの本を紹介するコーナーです。
当センターの実施事業をボランティアでお手伝いいただいているサポートスタッフの方々による本の紹介、新刊展示架からのご紹介など、毎号、各テーマに沿った本を紹介しています。

「DV防止」テーマの本

 毎年11月12日から11月25日(女性に対する暴力撤廃国際日)までの2週間は、女性に対する暴力をなくす運動期間です。この期間に合わせ「DV(ドメスティック・バイオレンス)防止」をテーマとした本を紹介します。

 DVにさらされる子どもたち:親としての加害者が家族機能に及ぼす影響 

 DV被害女性と子どもへの影響を理解するための必読書

 本書は2004年に初版発行、2022年に新訳版が発行された。初版から20年の時を経ているが、内容は現在でも参考になるものである。
 子どもがいる被害女性は、夫からの暴力に晒されても子どもを守ろうとする。しかし、守りたくても守れない家族関係の力学がある。「母親への暴力は、たとえ子どもが一度もそれを目撃していたり、聞いたりしていなくても、母子関係や母親の養育能力に影響を及ぼす」と記されている。加害者から離れれば母子ともに安全に穏やかに暮らせるかというとそう簡単ではない。父親の暴力によって家族機能に影響が及ぶことをわかりやすく解説している。翻訳者が「著者達は一貫して被害女性に対して敬意を持つことの重要性を強調している」と書いている点にも心惹かれる1冊である。  

 

著者:ランディ・バンクロフト
    ジェイ・G・シルバーマン
    幾島幸子訳
出版社:金剛出版
出版年:2022

Pick up:" アンコンシャス・バイアス "

 アンコンシャスバイアスとは、無意識の偏見や思い込みを指します。一人ひとりの経験や見聞きしたものがベースとなっており、気づかないうちに自分や周囲の人の選択や行動を制限してしまうことがあります。「男性だから」「女性だから」といった日常に潜むジェンダーにまつわる様々なバイアスについて考えるためのおすすめ本を2冊ご紹介します。

女ことばってなんなのかしら?「性別の美学」の日本語
 

「女ことば」では悪態がつけないし、命令も出来ない!

 著者はドイツ語・英語に長年接してきた翻訳家としての経験を生かし、日本語の「女ことば」の歴史や役割に注目して考察します。性差の問題は「いいかしら」「そうなのね」といった表面的な表現にあるのではなく、主語の省略や受け身・主観的表現など、日本語の独特な言い回しにあると指摘し、この「女ことば」に見られる「性別の美学」が日本人に浸透している性差別の本質だと論じます。本書は、エッセイ形式で書かれていますが、女性を縛る言葉の社会的背景について新たな視点を提供する、学びが多い一冊です。

著者:平野卿子
出版社:河出新書
出版年:2023
女の子だから、男の子だからをなくす本
 

いろんな年代の人に読んでほしい絵本

 ジェンダー規範について考える韓国発の絵本です。カラフルなイラストが親しみやすく、内容も充実しています。子どもの行動や考え方を「女の子だから」「男の子だから」などと決めつけることが自由を奪う原因だと指摘し、子供たちに、そんな言葉は聞かなくていい、大人が間違っていたら、大人を変えよう、と語りかけます。子ども向けに書かれていますが、大人たちにも既存の性別の枠組みから徐々に解放される気づきを与えてくれます。家族で読んでほしいお薦めの一冊です。

 
著者:ユン・ウンジュ文
   イ・ヘジョン絵
   すんみ訳
出版社:エトセトラブックス
出版年:2021
 

アンコンシャス・バイアスに関する企画展示を行いました!

 8月末にインターンシップで当センターの職場体験をした大学3年生2名が、4コマまんが「ジェンダーもやもや、燃やそう!」パネル展(8月29日~9月15日開催)からインスパイヤーされたポスター・ポップを作成してくれました。

 

サポートスタッフのイチオシ本

 アニメと声優のメディア史 なぜ女性が少年を演じるのか
 

 日本アニメの魅力の"多様性"を可能にする女性声優の活躍 

 私の高校時代はちょうどアニメブームで、声優にも夢中になった。その後アニメから離れたので、本書で声優の歴史が解説されているのはありがたい。
 著者はアニメ・メディアの研究者。男の子の声を女性が演じることに私たちは慣れているが、世界的に珍しいらしい。そして、今や中学生以上の年齢の少年役を女性が演じ、人気を博することも珍しくない。さらに、ジェンダーやセクシュアリティを超えたキャラクターの登場と、それを可能にした女性声優の活躍を紹介した本書は興味深い。アニメは、絵と声だけでキャラクターを作ることができるので無限の可能性がある。その自由度が日本のアニメの特徴だと思われるが、現実社会での多様性の実現に向けてのヒントにしたい1冊だ。(S.S)

著者:石田美紀
出版社:青弓社
出版年:2020

 戦後日本のメディアと社会教育 : 「婦人の時間」の放送から「NHK婦人学級」の集団学習まで

 

 

 ”草の根女性リーダー”を育てた女性の学習の歴史を知る

 私はテレビで、集団学習をしている女性たちの映像を見て興味を持ち、この本に出会った。『婦人の時間』はGHQが「日本女性再教育プログラム」として作ったラジオ番組。その後1971年まで『婦人学級』としてテレビで続いた。特徴は、『婦人学級』などの番組を小規模な集団で視聴し、視聴後にメンバー間の話し合いをすることで番組内容の理解度を高めるとともに、民主的な話し合いの仕方とを学ぶというユニークさ。
 また、テレビで模擬会合を放送し視聴者にその方法を伝えた。番組がグループ活動を支える役割を果たし、結果として自分の「声」を持つ地域の女性リーダーたちを生み出すことに成功し、日本社会に寄与したと著者は考える。
 今、私の地元でも町会やPTA活動が縮小し、以前にも増して女性の声が地域に反映されにくくなっている気がする。女性の学習の歴史を知ることで、新たな「地域」の枠組み作りと「孤立」の解消を考えるヒントになる思い、この本をお勧めしたい。(S.S)

著者:岡原都
出版社:福村出版
出版年:2009

新刊展示架からご紹介

  ピンクと青とジェンダ   声の地層:災禍と痛みを語ること   思い込みにとらわれない生き方
  著者:井国雄、田戸岡好香
出版社: 青弓社
出版年: 2025
  著者: 瀬尾夏美
出版社:生きのびるブックス
出版年: 2023
  著者: 坂東眞理子
出版社: ポプラ社
出版年: 2023

お知らせ

  • 2025年12月15日(月曜日)から20日(土曜日)は、特別整理(蔵書点検)のため、休館致します。
    ご不便をおかけしますが、ご理解とご協力をお願い致します。
  • 8月より、情報検索用タブレット端末を設置しました。
    埼玉県内図書館横断検索を利用して、情報ライブラリーに所蔵のない資料が、ほかの図書館に所蔵しているか等、調べることができます。

あとがき

  秋の夜長、皆さんはどのように過ごされますか?
じっくりと好きな映画やドラマを楽しむ方も多いでしょう。
話題の映像作品には、ジェンダー問題や社会課題を深く掘り下げたものがたくさんあり、その中には小説やコミックが原作となっているものも多数あります。映像だけでは描き切れなかった物語の細部や、登場人物の胸の内。そのすべてを、原作を読むことでさらに深く味わってみませんか。
 当ライブラリーには、あなたの「推し作品」の原作はもちろん、新たな出会いとなる一冊がきっと見つかります。
読書の秋、あなたの感動を深める一冊を探しに、ぜひお気軽にご来館ください。