Bookmark Vol.66

Bookmarkとは、情報ライブラリーの本を紹介するコーナーです。
当センターの実施事業をボランティアでお手伝いいただいているサポートスタッフの方々による本の紹介、新刊展示架からのご紹介など、毎号、各テーマに沿った本を紹介しています。

With You さいたまフェスティバル講演会関連本

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』


著者: 三宅 香帆  
出版社: 集英社新書
出版年: 2024

スマホを見る時間はあるけれど… 

 2月7日(土曜日)・8日(日曜日)に開催する第24回With You さいたまフェスティバルの最後を飾る講演会に、この本の著者である三宅香帆さんをお招きします。講演会タイトルは『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』ー著者と考える「半身」の生き方、働き方ーです。
 もう、このタイトルが表すとおり、今まで読書習慣があったのに、忙しすぎて読めなくなったけれど、就寝前にはスマホを片手に長時間過ごす時間は増えるばかりの毎日。
 どんな心構えでで仕事に向かい、日々を送るれば良いのか。多くの書籍やドラマを参照しながら、多くのヒントを受け取ることができます。
 本を手に取っていただくことはもちろんですが、ぜひ、講演会にご参加いただき、直接メッセージを受け取っていただきたいと思います。

Pick up:戦後80年、痛みを伴う記憶を未来へ語り継ぐ

 今もなお、世界の各地で争いがあり、たくさんの命がなくなっています。日本で平和に暮らせていることに、感謝しつつも、いつ自分たちが戦争へ突き進んでいってもおかしくない時代。そうならないためにも、先人の想いを大切に、戦争の悲惨さを忘れることなく暮らしていきたい。戦争の記憶を風化させないためにも、私たち自身や子どもたちが戦争に巻き込まれないよう、本を通して戦争について学び、考える時間を持つことがこれまで以上に重要だと感じます。今回は、そのための本を2冊紹介します。

刻印 満蒙開拓団、黒川村の女性たち

編著者: 松原 文枝 
出版社: KADOKAWA
出版年: 2025

なかったことにはしてはいけない。封印から刻印へ。

 ドキュメンタリー映画『黒川の女たち』の原作本。満州に渡った岐阜県黒川村の黒川村開拓団は、終戦直後、生きて日本に帰るために18~22歳の女性たちをソ連軍に差し出すことを決断した。帰国した彼女たちは、周囲からの誹謗中傷に遭い、公表するなと沈黙を強いられた。時が経つにつれて、女性たち自身が沈黙を破り、自分の人生と社会を新たに切り開いていく。「乙女の碑」とだけ書かれた地蔵菩薩建立から数十年、終戦から73年の歳月が経った2018年、そのいわれを書き記した碑文が建てられた。
 本書の核心は被害女性たちが70年を経て実名で語り、尊厳を取り戻していく姿と、子や孫世代が彼女たちを誇りに思い、その愛情が女性たちの力になっていく様子である。「そういう歴史があったことを伝えるのが、生きているものの使命じゃないですか。」女性たちから問われているのは私たち自身だ、と筆者は結ぶ。重くも読む価値のある一冊だ。

わたくし96歳 #戦争反対

著者:森田富美子,森田京子
編者: 科学技術振興機構 
          研究開発戦略センター 
出版社: 講談社
出版年: 2025

Xでの投稿の末尾はいつも「#戦争反対」

 富美子さんは16歳の時、長崎で被爆し、一度に両親と3人の妹弟を失った。遺体を自ら火葬したその経験は心の奥深くにしまい込みながら生きてきたが、2020年8月、当時の首相の式典挨拶に大きな衝撃を受け、自身の被爆体験をツイッター(現X)に投稿し始める。いまやフォロワー8万4千人となった。そうした母の生き様を、戦後80年となる夏を前に娘京子さんが綴った一冊。原爆体験を語ることの難しさに改めて思いを馳せるとともに、それを乗り越えて平和を訴え続けようと強い意志で発信し続ける決意に感謝したい。
 ただ、この本はただの戦争体験記ではない。辛い記憶を抱えながらもパワフルに、自分らしく生きることをあきらめない女性の半生記だ。強く前向きな姿勢に圧倒されると同時に、自分らしく生きることの意味を問いかけてくる。ふたりがどちらの犠牲にもならず、互いを支え合う親子関係も心に沁みる。ぜひ多くの人に読んでほしい。#戦争反対 #核兵器反対

 

サポートスタッフのイチオシ本

テレビドラマ研究の教科書 ジェンダー・家族・都市

著者: 藤田真文
出版社: 青弓社
出版年: 2024

社会学はテレビドラマでも学べます!

この本は、大学でメディア論を教える筆者によるテレビドラマ研究の入門書。主人公が若者の37作品を恋愛や女性像、家族・地域社会などのテーマに分けて分析している。
 この本でユニークなのは、「都市」という視点。「都市」を単なる機能としてではなく、登場人物たちの人生における選択や葛藤、願望、人間関係など、時代背景を反映した動機付けの要素として考察している。
 私自身は時代背景に共感できる作品や、主人公がどんな選択をするかに注目した作品が好きだ。また、「女性は結婚・未婚に関わらず、どこで自分の居場所を見つけられるのか?」という視点にも関心を持ち続けてきた。この問いと都市との関係性について考えるきっかけになった。
 本書を通して、普段何気なく見ていたドラマを意識的に分析できるようになり、ドラマ鑑賞がより深く楽しめそうだと感じた。ドラマ好きの方にはぜひおすすめしたい一冊である。(S.S)

アセクシュアルアロマンティック入門 : 性的惹かれや恋愛感情を持たない人たち

著者: 松浦優
出版社: 集英社新書
出版年: 2025

恋愛・結婚の“当たり前”を問い直す本

 本書は、アセクシュアルやアロマンティックの基礎的な解説にとどまらず、その視点から社会の価値観やセクシュアリティの捉え方全体に問いを投げかける一冊です。著者・松浦優さんは、現時点でわかっていること、これから考えるべきことをまとめたいという思いから本書を執筆しています。 
 恋愛や結婚を当然視しない、多様なパートナーシップの形に光を当てている点が特に魅力です。恋愛至上主義や“普通”とされている結婚観に違和感を覚える人にぜひ読んでほしいと思います。本書を通じて、私自身もさまざまな価値観の存在に気づき、無意識の決めつけを手放す大切さを実感しました。読者にとっても、多様な人を尊重する視点を育むきっかけになるはずです。(K.K)

黄色い家  sisters in yellow


著者: 川上未映子
出版社: 中央公論新社
出版年: 2023

お金をめぐる人間模様が現実すぎる!

 本書は読売新聞朝刊の新聞小説を書籍化した作品である。タイトル『黄色い家』の「黄色」は風水では金運を表し、主人公・花とその周辺は絶えずお金の問題を抱えていた。
 花は母子家庭で、母親は不在がちで食事もままならないような貧困生活を送っていた。高校生の花はアルバイトで生活費を稼ぐものの、貯めたお金は他人に奪われてしまう不運に見舞われる。しかしその後、街中で偶然再会した母親の友人・黄美子のもとで共同生活がスタート、スナックで働く機会を得て高収入を得られることになるが・・・。
 本書では、登場する人物たちが負の循環から抜だそうともがく中、犯罪へと足を踏み入れてしまう姿が描かれている。単なる小説と片付けるにはもったいないほど、読者の心に響く作品である。(I.Y)

新刊展示架からご紹介

タイトル:その〈男らしさ〉は
どこからきたの?
広告で読み解く「デキる男」の現在地

著者:小林 美香
出版社: 朝日新聞出版
出版年: 2025

タイトル: 世界ではじめて
エベレストの頂点に立った女性
登山家 田部井淳子の物語

著者: 安田アニータ
イラスト: 清水 裕子
翻訳:おおつか のりこ

出版社: 西村書店
出版年: 2025

 タイトル: ジェンダー平等世界一 
アイスランドの並外れた女性たち

 著者: イライザ・リード
 監修、翻訳:メディア協同組合
       アンフィルター
 解説:三浦まり

 出版社: 明石書店
 出版年: 2025

お知らせ

  • 災害・防災情報コーナーをご活用ください。                    情報情報ライブラリーには、男女共同参画の視点で収集した、災害・減災・復興に関する資料などをまとめて展示した「災害・防災情報コーナー」があります。一般書の他、行政資料もこちらのコーナーに配架していますので、ぜひご活用ください。(行政資料は閲覧のみです。)

あとがき

 皆様にとって1年を締めくくる「年末の風物詩」は何でしょうか?
 情報ライブラリーにとっての風物詩、それは、「蔵書点検」です。蔵書点検とは、当ライブラリーが所蔵する全ての本を対象に、本が正しい場所にあるか、不明な本がないかなどを一冊ずつ確認し、皆様が利用しやすいよう整えていく大切な作業です。センターには、約2万8千冊の本があります。その本のバーコードを一つひとつ読み込んでいくのですが、棚をくまなくチェックするこの機会は「あっこんな本があった!」「読みそびれていた、これは面白そう!」といった、スタッフにとっても新たな発見が多い時間でもあります。

 蔵書点検を終え、本が気持ちよく整った状態で皆様をお迎えします。ぜひライブラリーへお立ち寄りいただき、新年を共にする素敵な一冊を見つけに来てください。皆様のご来館をお待ちしております。