#本棚から一冊

#本棚から一冊では、With Youさいたま職員のおすすめ本を紹介します。

「第22回 With You さいたまフェスティバル講演会」テーマの本


 第22回With You さいたまフェスティバルは、2024年2月2日(金)~2月4日(日)に開催いたします。講演会は、ジェーン・スーさんの「私らしさの見つけ方」と題して、2月4日に実施します。講演会の申込は、2024年1月10日(水)午前10時からとなっております。ぜひご参加ください!
 今回のBookmarkでは、この講演会にちなんだ図書をご紹介します。
 また、情報ライブラリーでも、関連図書を展示しております。貸出しもしていますので、ぜひ、お越しください。

なんかいやな感じ

そもそも表紙のデザインが“なんかいやな感じ”
 まず目に付くのが表紙カバーデザインだ。タイトル文字が切れている、カバーを取った本体をみても同様だ。ほんと、なんかいやな感じ。このデザインについては、砂鉄さんがパーソナリティを務めるラジオ番組「武田砂鉄のプレ金ナイト」での作家:中村文則さんとの対談で、中村さんがこの表紙のいやな感じを指摘し、ご本人も「そうだよね」と応えていた。が、当センターライブラリー所蔵の書籍は、保護シートを装着してしまっているので、本体表紙はご覧いただけない。気になる方は、書店でご確認を。
〈物心ついてから今まで、遠くで起きていたこと。近くで起きていたこと。その記憶を重ねて、「社会」を語るためにも、まずは「感じ」を考えてみようと思った。…同世代が読めば通じやすい話も出てくるが、特に世代論ではない。主題は史実や思い出ではなく「感じ」である。〉とまえがきにあるように、その時々に起こった社会的な大きな事件や個人的な出来事を砂鉄さんがどのように見て、感じたのかが綴られている。私の息子は、砂鉄さんと同い年、彼らと同年齢の若者が起こした大きな事件が砂鉄さんにはどのように見えて、どう感じたのか。母親として私が感じたことはさまざま思い出したが、息子はどう感じたのだろうか、そのことについて語り合っただろうか、残念ながら思い出せない。これは、砂鉄さんの中高生時代の母親とのエピソードも書かれていたので、私も息子との関係性などを思い出さざるを得なかったのかもしれない。
 特に世代論ではない、とあるように、どんな世代が読んでも、社会にしみ込んだいやな感じに共感できるのではないだろうか。私たちの毎日の暮らしが社会の在りようと地続きなのだと実感できる。砂鉄さんの社会への視座は信頼できる。 
 

著者・出版社・出版年

武田砂鉄・講談社・2023
 

請求記号

914.6/タ

女らしさは誰のため?

「女らしさ」の正体とは?
 コラムニストでラジオパーソナリティのジェーン・スーさんと脳科学者・中野信子さんが、「女らしさ」とは何か、誰のためのものなのか、とことん語り合った対談集。お互いの人生を振り返りながら、これまで抱えてきたモヤモヤや違和感を言語化し、その正体を解き明かしていきます。
 幼少期から自分自身を「普通の女の子」として見られず、世間で言う「女らしさ」に違和感を抱いていたというジェーン・スーさん。「女らしくない」と否定され続け、「男性になりたい」と思ったこともあったという中野信子さん。
 おふたりの対談を読み進めていくうちに、「女らしさ/男らしさ」や「普通」、「こうあるべき」といった昔ながらの固定観念あるいは既成概念がこのモヤモヤや違和感の正体ではないかと気づかされます。そして、その固定観念や既成概念を作り出したのは・・・?
 もし今、あなたが生きづらさを感じ、自分らしさを奪われているように思えるならば、それは性別に限らず、知らず知らずのうちに埋め込まれた「こうあるべき」という「正解」にとらわれてしまっているからかもしれません。
 「小さくてきれいな箱に収まって、誰かに選ばれるのを待たなくていい」とジェーン・スーさんは言います。性別や年齢、容姿にとらわれず考えてみてください。本当のあなたはどんな服が着てみたいですか?何をしてみたいですか?もう「あらかじめ決められた正解だけを選ばされる人生」は止めにしませんか?
 迷い、時に間違いながらも、自らにある思い込みを取り払い、選択することの大切さに気付かされる一冊です。 


※本書は、2019年刊行の『女に生まれてモヤってる!』(小学館 請求記号:367.21/オ)を加筆、再編集したものです。

 

著者・出版社・出版年

ジェーン・スー、中野信子・小学館・ 2023
 

請求記号

367.21/オ

気になる本


 With Youさいたま職員がちょっと気になるテーマの本、話題になりそうな内容の本を紹介していきます。

からだのきもち

相手の体に手を触れる時には同意を得るとはどういうこと?
 この夏、イベントで複数の観客がタレントの体を断りもなく触れ、イベント主催会社が加害者を特定できないまま告訴する事件が発生したのは記憶に新しいところです。
「ファンに近寄ればそういったリスクはあり得る」「そもそもそんな服装をしている方が悪い」あたかも被害者に非があるような声が上がり、それに対し、こうした発言が二次加害であることを指摘する声も多く上がりました。
 「境界」という概念がまだまだ社会に根付かない事実に考えさせられます。
 相手の体に手を触れる時には同意を得るとはどういうことでしょうか。
 例えば、同じ人と手をつなぐときにも、その都度、その時の気持ちを確認しなくてはならないことをご存知ですか?
 「昨日はよくても今日はそんな気分ではない」と断られることもあります。
 否定を上手に受け入れる。それが相手の気持ちを尊重することにつながります。
 何をもって境界を超えたと感じるかはひとそれぞれ違います。そのため、関係をつくっていく時には一人ひとりが違うということを前提とした対話が必要となります。
 子どもが自分のからだや他人のからだの「境界(バウンダリー)」について学ぶことは、自分に対する意識と自信を形成し、自分が他者からどう扱われるべきか理解するのに重要であると言われています。
 そのために、幼いころから他人の体の境界を尊重し、他人のパーソナルスペースに入るときは同意を求めなくてはならないと理解することが大切となります。
 先日、国際協力NGO「ジョイセフ」がアンケートしたところ、「『性的同意』が具体的にどういうものか、正直にわかっていない若者は4割を超す」という新聞報道もありました。
 この絵本は、子どもと大人が話し合いながら、「境界・同意・尊重」の意味を学び、理解を深めていく手助けとなるでしょう。

 

著者・出版社・出版年

ジェイニーン・サンダース作 / サラ・ジェニングス絵 / 上田勢子訳・こども未来社・2022
 

請求記号

151/カ

三色のキャラメルーー不妊と向き合ったからこそわかったこと

不妊を乗り越えて得た生き方  
 筆者、永森咲希さんは、紆余曲折あって35歳の時、二度目の結婚をする。良い伴侶を得て仕事にも打ち込む日々だった。ところが、その後不妊であることに気づき、長い不妊治療が始まった。37歳から6年間、不妊治療で格闘する。そんな中で経験した自分との闘い、夫婦の葛藤、不妊治療を辞めたあとに得た自分らしい生き方について綴られた一冊である。
 最も心を動かされたのは、「体外受精」の治療で何度も妊娠に失敗し、夫に「耐えられない!」と伝え、夫婦で喧嘩になった場面である。いくら夫婦での不妊治療といっても、筆者の場合、妻側の負担が圧倒的に大きかった。そして「子どもがほしい」という気持ちも妻のほうが強かった。先が見えない治療であり、一回ごとに数十万円の治療代が消えて行く。それなのに、妊娠という結果を得られない。でもとことん夫婦で話すことによって、同じ不妊治療でも、夫と妻の温度差があるのは当然のこと、イヤになった時、辛い時は、お互いの気持ちを我慢せず伝えていくことで、わかりあえる機会になる、そう考えられるようになった。そういったプロセスを経て、筆者夫婦の絆はむしろ強まって行った。
 医学の進歩によって不妊治療も進歩し、お金と時間をかければ、チャレンジできる機会は増えて来たし、期間も長くなった。しかしながら、著者は『ずっとできなかったら、どうする』『いつか、不妊治療をやめる時が来る?』『その時は、ちゃんとやめられるだろうか、そしてそれはいつだろうか』と、ずっと考えていた。そして身近な人たちの訃報に接し、ついに著者は不妊治療を終わりにする決断をした。自分自身の体へのリスク、赤ちゃんへのリスクを考え、子どもをもつことを断念したのだった。
 『みんなが当たり前のように手に入れているものでも、手に入らないものもある』
 咲希さんは、自分ではどうすることもできない運命を甘んじて受け入れなくてはならないこともあると、不妊治療を通して学んだと記している。
 何をしても欠落感を感じていたが、段々と自分の人生を大事に生きたいと思うようになり、両親や夫に支えられる中で、次の一歩を踏み出すことになった。不妊や不妊治療で悩む人へのカウンセリングを学び、支援活動を始めたのだ。6年間取り組んだ不妊治療は無駄だったのかと自問した時もあったが、初めて人の役に立ち、自分の経験も全く無駄ではなかったと思えたのだ。現在は、不妊に悩む人、子どもをもつことを諦めた人への支援を行う社団法人を設立し、その代表を務め活動している。筆者は今、時間が足りないくらいやりたいことがあるという。それでも、時々ふとしたことから、自分が不妊であること、子どもをもたない人生を生きていくのだということを思い出し、切なくなったり、ぽっかり穴に落ちてしまうことがあるそうだ。でも、そのあと、その穴から出てくる術も習得している。
 著者、咲希さんのひたむきな生き方が胸を打った。人は自分が既に持っているものは当たり前すぎて、幸せであっても気がつかなかったりする。読む人に温かい言葉を送ってくれる著作であった。
 現代にあっては、結婚するかしないか、子どもをもつかもたないかは、もちろん当事者の自由な選択に委ねられているし、生き方は人それぞれである。とは言っても、子どもができなくて悩んでいる人、不妊治療についてどう選択するか迷っている人は多いに違いない。そのような人たちにもぜひ手にとってほしい本である。
 

著者・出版社・出版年

永森咲希・文芸社・2014
 

請求記号

495.4/サ

なぜ男女の賃金に格差があるのか—女性の生き方の経済学

「男女間賃金格差」はジェンダー平等を考える上で重要なテーマ
 本書は、今年のノーベル経済学賞の受賞が決まった筆者の、長年にわたる研究の集大成ともいえる著作である。男女賃金格差の原因について研究してきた筆者は、この本では1900年から今日までの100年間を時代ごとに第1から第5世代まで五つの世代に分け、データとその時代を生きたアメリカ女性のライフヒストリーを交えながら、女性の賃金の上昇を阻む原因をあぶり出す。時代が進むごとに女性がキャリアと家庭を両立できる基盤はずいぶん整ってきた。それでも、何故いまだに男女の賃金格差が残っているのか。
 著者が今日の男女格差を分析するために注目するのは、医師、弁護士など米国社会の「エリート」である。エリート職種ほど能力や結果で評価されるのだから差別はないはずだと考えてしまいがちだ。現実はむしろ逆で日本でも米国でも、報酬が高いエリート職種ほど男女格差が大きい。
 この消え去らない格差の謎を解く鍵は仕事の「貪欲さ(Greedy)」にあると筆者は言う。こうした専門職は、時間外労働が常態化しており、「いつでも対応可能」なシステムが高い利益やキャリアアップに有利となる。貪欲な仕事はとりわけ子育てと相性が悪い。結果的に、夫婦で家事育児を公平に分担するよりも、夫は職場、妻は(子育てを機に貪欲な仕事の一線からおりて)家庭での待機に時間を割くような「専門化」が起こる。
 エリート職種にうめ込まれているこの業務システムが男女格差の原因であり、格差縮小のためにはより柔軟な働き方の整備などの経営改革が必要だと筆者は主張する。出産前後で女性の収入が下落するチャイルド・ペナルティは先進国共通の現象である。特に、その落ち込みから回復しない日本社会にとって「貪欲な仕事」への視座は示唆的だ。
 ノーベル賞選考委員会の授賞解説は「ジェンダー経済学を経済学の主要分野として打ち立てることに大きく貢献した」と結ばれている。本書の仮説はすでに広く知られているが、この受賞を機にさらに世界で男女の賃金格差を見直す研究や議論が続き、ジェンダー平等な労働市場への変化を促すことを期待したい。
 本書には難しい専門用語や数式も登場しない。100年にわたり、女性たちがキャリアと家庭の両立という課題に向き合いながら、工夫と努力を重ねて次世代にバトンを渡してきた旅が描かれているが、同じように葛藤を抱えながら働いてきた母や自分自身の人生を振り返る機会にもなった。その旅はまだ続いていく。経済書は苦手と思う方もぜひ手に取って読んでもらいたい。
 

著者・出版社・出版年

クラウディア・ゴールディン著・鹿田昌美訳・慶應義塾大学出版会・2023
 

請求記号

336.4/ナ

トランスジェンダー問題――議論は正義のために

「トランスジェンダー問題」とはトイレや公衆浴場のスペースの問題ではない。
 とすれば、何が「問題」なのか。それは貧困や失業の問題であり、虐待やいじめ、メンタルヘルスの問題であり、身体の自律性の問題であり、資本主義の問題であり、家父長制の問題であり、国家権力の問題である。重要なことは、それらはトランスジェンダーだけの問題ではなく、この自己責任社会に暮らす多くの人を苦しめている問題でもある。
 英国のトランス女性の活動家である筆者は、トランスジェンダーの直面する現実を幅広い調査や分析によって明らかにし、そうした社会を変えるために議論を展開する。本書は、2021年に英国で刊行されるや否や、大きな反響を呼んだ。取り上げられている事例は英国が中心だが、日本の現状と共通するところが多い。特に第7章に描き出されたトランスジェンダーではない女性からのトランス排除言説が広がりつつあるいま、読まれるべき本だと思う。
 トランスジェンダーは、つねに「問われるべきもの」として扱われ、家族や社会、国家から、自分の身体や精神を問いただされ続ける。女性/男性であるということはいったいどういうことなのかーこの社会のジェンダーという制度が問われるべきなのに、トランスジェンダーが「問題」として殊更にセンセーショナルに取り上げられるとき、この問いから社会は目をそらしている。これこそが「トランスジェンダー問題」なのである。
 巻末の清水晶子氏による日本版解説や訳者による解説も素晴らしく、この本の主張に向き合えるように丁寧に編集されている。ぜひ多くの人にじっくりと読んでほしい一冊だ。

 

著者・出版社・出版年

ショーン・フェイ (著), 高井ゆと里 (翻訳), 清水晶子(解説)・明石書店・2022
 

請求記号

367.9/ト

15歳からの社会保障

人生のピンチに備えて知っておこう
 本書は10人の具体的な物語を通して、社会保障制度について知ることができる。中高生を主な読書対象者としているとのことで具体的で分かりやすい。物語の主人公は特別な人ではない。当事者となるのは、明日の自分かもしれないし、身近な人かもしれない。社会保障制度は弱い立場に置かれている人だけが利用するものではなく、誰もが利用する可能性があるということを、本書は教えてくれる。
 物語の一つ、発達障害の子を持つ親の場合では、学校などで落ち着きがない、じっとしていられない、こだわりが強い子だと分かれば、それらは発達障害の特徴で、親の育て方や本人の努力とは無関係であると専門医は教えてくれる。専門機関につながる事で「放課後等デイサービス」が利用できる。同じ障害をもつ親の集いに参加すれば、子どもの行動を理解することやストレスの少ない環境作り等について学べるとある。その子のきょうだいたちのためには何かあるのだろうか、気になるところである。親たちは他のきょうだいにまで手が回らないと聞くからである。
 その他に「ケガで仕事を休むことになったら」、「高校生で妊娠し生活に困ったら」、「会社でハラスメントを受けたら」など、誰かに起こりそうなエピソードが、それらに対応する制度とともに紹介されている。ただ、これら生活の困りごとに対応する社会保障制度は、知らないと利用できない。知っている人は相談したことがあるから分かるのかもしれない。困った時の相談窓口はあるが、困った時に備えて知っておきたいという事に応える窓口や書物は、意外に少ないように思う。相談窓口に行けば「困ったらきて下さい」と言われるだろう。
 社会保障は申請主義なので困った時に相談し、申請手続きを終えたのちに制度につながる仕組みなのだ。当事者となる前にどのような制度があるのか知っておきたい。人生のピンチに備えるために、とっておきの一冊に出会えたような気がした。

 

著者・出版社・出版年

横山北斗・日本評論社・2022
 

請求記号

364/ジ

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