お知らせ

 With Youさいたまのボランティア「サポートスタッフ」が、With Youさいたま情報ライブラリー蔵書から選んだイチオシ本を紹介します。

スマホ脳




心の不調は大問題!~女性と子どもが上手にスマホを利用するには
 著者はスウェーデンの精神科医。近年、精神的不調を訴える人がなぜ増えているのかを考え、人類が現代社会に適応できないからだと結論付けた。脳は狩猟採集生活をしていた頃と変わっていないが生活の環境が急激に変わり、ついていけない人が出てきているのだ。しかも現代のストレスの特徴は長期に渡るのだが、そこへスマホが登場した。情報獲得も他人とのつながりもストレス発散のゲームも、すべてが持ち運べるようになり、離れられないことから依存になりやすいという。過剰なスマホの使用は、うつの危険因子の一つで、睡眠不足や座りっぱなしのライフスタイルを招き、社会的な孤立に陥りがちになるのが大問題だという。
 また、「SNSを使うほど孤独になる」と言われるが、それは他人と自分を比べて自分に自信が持てなくなるから。ここで私は、女性の生活においてスマホから情報を得る危険と社会的孤立の関係を考えてみた。女性は他人の容姿だけでなく生活ぶりを見て、自分より上か下かを感じてしまう。その基準も男性社会が作ったものかもしれない。実は女性の生き方は多様で、現実に人と話せば分かることなのだが、ネット情報はその人の興味に合わせて送られてくる。そのため、さらに世界が狭まり、自信をなくし孤立してしまう。対策として、情報に付随して自分の心の状態に付け込んだ広告が巧妙に仕組まれていることに気づくことが大切だろう。また自分の写真や情報を必要以上に発信するのは女性の方がリスクが大きいだろう。自分を守るには、人や物事から距離を置き、批判的に見、常に複数の情報を得る習慣を身につけることが重要になると思った。
 著者がもう一つ懸念しているのは、まだ発達段階の子どもの脳に与える影響だ。スマホによる様々な強い刺激は学力だけでなく、心の成長も歪めてしまうという。一番の予防は、遊ばせることだそうだ。私は、遊ばせる場所がない現状で、子どもの健全な育ちの責任が親だけに負わされてはならないと強く感じた。
 著者は、「すべての知的能力が、運動によって機能を向上させられる。集中できるようになるし、記憶力が高まり、ストレスにも強くなる」と言っている。
 それに加えて、私は社会全体でメディアリテラシー教育に取り組むことと、悩みを共有できるリアルな人間関係が作れる居場所づくりが鍵になると考える。
 最後に、私は訳者の功績を取り上げたい。久山洋子はスウェーデン在住で、現地の子育てを紹介したことで知られる。「訳者あとがき」から、彼女のこの本にかける熱意が伝わって来た。(S.S)
 

著者・出版社・出版年

アンデシュ・ハンセン著 久山葉子訳 新潮新書 2020
 

請求記号

498.39/ス

くもをさがす




がんを前にしたとき、自分はどう向き合うか――「どうする?自分」
 本書は著者初のノンフィクション作品であり、テーマが「乳がん」ということで話題になり、どこの図書館でも予約待ち状態でなかなか手にすることができなかった。そんな折り、ここライブラリーで幸運にもすぐに手にすることができた。そして読み始めたら一気に引き込まれた。
 当時はコロナ禍真っ盛りで、著者はカナダに在住。あるとき自宅で多く目にした蜘蛛に足をかまれた疑いで診察を受けるが、それ以前から胸のしこりが気になっていた。蜘蛛のお導きか重い腰を上げ、病院に相談に行く。結果は乳がん。そこから著者のがんに向き合う暮らしが始まる。
 本書には、著者のがん宣告からの日記を元に、著者の感情はもとより、カナダ在住者の視点で、街の様子、日本とカナダの診療の違いが記されている。印象的なのは医療スタッフの陽気さ(心のサポート)とカナダ在住の友人の存在。とかく「がん」と聞くと気分が落ち込むものだ。著者自身もはじめはそうであった。しかし医療スタッフと多くの友に支えられ、自分を取り戻し、克服していった。作品描写の大半は治療の様子が記され、著者が判断を問われる場面にも出会う……治療計画、投薬の副作用、乳房温存か……等々。読者は時には自分のこととして重ね合わせ、考えさせられてしまうだろう。自分だったらどう向き合い、そして自分を取り戻していくか・・・「どうする?自分」。本書は著者の物語であるとともに、読者自身にも起こりうる物語である。
 タイトルの「くも」とは・・・、蜘蛛だろうか。かつて著者が子どもの頃から祖母に言われていたこと、「弘法大師の使いである蜘蛛をむやみに殺生してはならない」という言い伝えについて、本書のはじめのほうで触れている。そのつながりが著者の命を救ったのかもしれない。そして自分もまた、本書を運良く手にすることができ、ここで紹介する機会を得たことを蜘蛛のお導きと縁を感ぜずにいられない。(I.Y)

 

著者・出版社・出版年

西加奈子・河出書房新社・2023
 

請求記号

916/二

※サポートスタッフ募集中!
 サポートスタッフについてはこちら→With You さいたまでのボランティア

1 2 2