サポートスタッフのイチオシ本
 With Youさいたまのボランティア「サポートスタッフ」が、With Youさいたま情報ライブラリー蔵書から選んだイチオシ本を紹介します。
 

Auオードリー・タン : 天才IT相7つの顔

天才児ゆえの苦しみを乗り越え「人々とともに」生きる”彼女”の半生
 新型コロナでマスクが不足した際、マスクマップアプリを開発して、名が知れ渡った台湾人のオードリー・タン。トランスジェンダーを公表していると知り、関心を持ち、この本を読んだ。
 彼女の人物像は、2016年から台湾のIT大臣で、当時35歳。コンピュータのプログラムをかく一方、詩作にも情熱を燃やしている。性格は穏やかでユーモアがあり、すでに国境を越えて活躍し、知名度があり、人脈も幅広い。
 この本は7つの側面から彼女を捉えた評伝。そこに絡めて近年の台湾の法律の改正や制度の変更もわかりやすく説明している。
 私はこのうちの3つに特に興味を持った。まず、かつて男性だったが、今は女性であること。次にギフテッド(高IQ)であること。そして身につけたITの技術を使って、人々が政治に関心を持ち誰もがもっと生きやすい国に変えていけるよう行動し成果を出していることだ。
 天才児ゆえに苦労したが親の理解もあり、ちょうど普及し始めたインターネットの世界に居場所を見つけた。その後 学校には行かなかったが、ネットコミュニテイに参加することでコミュニケーション能力とプログラミング技術を磨き、10代で実業界へ入りシリコンバレーで成功した。教育改革にも取り組む。「したいことをするのに性別はいらない」「インターネットで民主制度を知った」という。2014年の「ひまわり学生運動」でも情報発信で活躍した。彼女は「高い共感力を持ち続けること」、「人々のためのインターネットを」心掛けているという。政府に入ってから「情報で、人々の心を安定させる」ことに 貢献している。
 性別や国境、異年齢の人との交流など、ボーダーを超える経験をした彼女を知ることは”多様性” を考えるヒントになると思う。(S.S)
 

著者・出版社・出版年

アイリス・チュウ, 鄭仲嵐著・文藝春秋・2020.9
 

請求記号

289.2/タ

燕は戻ってこない

性と生殖、出産をめぐるおんなたちの挑戦!
 本書は「代理出産」をテーマに、生活費を得たいがために代理母となる派遣社員リキを軸に様々な人間模様を描いている。
 不妊治療の末、代理母出産に頼らざるを得ない夫婦、卵子提供や代理母にならざるを得ない派遣社員、子どもの存在以外は何不自由ない生活を送る元バレエダンサーの夫と彼のファンであった妻など、性と生殖、出産、家族関係、労働環境問題・・・等々、様々な要素を盛り込みながら、遺伝子を受け継ぐ子どもの存在の行方を最後まで読者に突きつけてくる。フィクションであることを忘れてしまうほど、社会で必死に生きている人々の姿が描かれており、時に、登場人物や現代社会に自分を重ね、考えさせられてしまう。著者の作品にはいつもたくましく生き抜く女性たちが登場し、読者を魅了するが、本作品でもまた女性たちの力強さに引き込まれた。
 タイトルの「燕は戻ってこない」は何を意味するのだろう? 著者の意図は計り知れないが、読者各々が解釈してみるのも楽しいだろう。(I.Y)
 

著者・出版社・出版年

桐野夏生著・集英社・2022.3
 

請求記号

913.6/キ

これからの時代を生きるあなたへ : 安心して弱者になれる社会をつくりたい

安心して弱者になれる社会を目指して、私たちができること
 本書は「最後の講義」(NHK)において、その道の専門家に「もし、今日が最後だとしたら、何を語るか」という問いのもと、学生に対して講義を行った番組の内容を基に編集した書籍。まさに著者が伝えたかったことを凝縮した一冊である。著者が研究を始めた頃の女性差別問題から、現在も続く女性を含む弱者に対する問題(ケア労働問題など)を時代背景や社会情勢を踏まえながら指摘している。そこにはサブタイトルにもあるように、当初から続いている著者の「安心して弱者になれる社会をつくりたい」一念にある。
 フェミニズム問題を女性の地位向上ととらえ、克服してしまえばおわりととらえられがちであるが、本書の4章の「フェニミズムは弱者が弱者のまま尊重される社会を求める思想」の言葉から、改めて私たちが取り組まなければならない問題であることが確認できる。また、2章、3章のケア労働問題では日々報道される事件はこれらが関わっていることが伺え、本文の「ハッピーな介護者でなければ ハッピーな介護はできない」はまさに的を射ている。などなど自分も本書で目を覚まされることが多い内容であった。
 5章では著者の上野氏と性別、年代、環境の違う10人のゼミ生が討論した模様を収めている。それぞれの立場から男女平等を考え、発言し、それに対し上野氏が示唆し、時には指摘し、共感している。読者は自分に近いゼミ生に境遇を重ね、生きるうえでのヒントがもらえるだろう。
 本書で「最後の講義」とあるが、著者の力強い言葉の数々に今後も活動は続いていくことだろう。私たち自身も安心して社会生活が送れるよう、考えて行動していきたいと本書を読んで感じた。(I.Y)
 

著者・出版社・出版年

上野千鶴子著・主婦の友社・2022.3
 

請求記号

367.1/コ

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