#本棚から一冊では、With Youさいたま職員のおすすめ本をご紹介します。
「男性によるトークセッション」テーマの本
10月5日(土)、With Youさいたまでは、ライターの武田砂鉄さんと精神保健福祉士/社会福祉士の斉藤章佳さんをお招きし、男性によるトークセッション「『男らしさ』と男尊女卑依存症社会」を開催します。
今回のBookmarkでは、この講演会にちなんだ図書をご紹介します。
マチズモを削り取れ
〈マチズモ=男性優位主義〉の実態を検証する 本書は、雑誌『すばる』の担当編集者Kさん(注:Kさんとは「このクソッタレな、そしてクソッタレなままちっとも動こうとしない男性優位社会にいつも怒っている女性」である)の怒りを著者である武田砂鉄さんが聴き取り、その怒りを引き受け、実際に町に出て調査し、考察するという〈マチズモ=男性優位主義〉実態検証本である。Kさんから送られてくる檄文や、ふたりの会話から生まれた疑問を基に、実際にその場を見に行ったり、体験したり、時にインタビューしたりしながら、なぜそうなのだろうと理由を探る。路上、電車、トイレ、会社、結婚式場、書店、飲食店……など、公共空間における特定の場面や状態に残存するマチズモについて、著者は事細かに考察する。それはマチズモの在り処を探し当て、削り取る場所を特定していく作業でもある。 二章の「電車に乗るのが怖い」では、著者は朝のラッシュ時の埼京線に乗り続け、満員電車の痴漢について考察する。また、四章の「それでも立って尿をするのか」では、なぜ新幹線の便座はデフォルトで上がっているのかという疑問を、実際にJR東海にぶつけてみる。 六章の「なぜ結婚を披露するのか」では、著者とKさんが偽装カップルとなり、実際に結婚式場に行って結婚式に向けた相談をし、なぜ古臭いジェンダー規範の滲む定例×定例×定例×……=結婚式をするのかを考える。 十章の「寿司は男のもの?」では、料理人に男性が多いことを疑問に思った二人が、特に寿司職人に女性がいない理由を探りに、銀座の高級寿司店に出向く。そして、ここでも二人は中年男性と若い女性のカップルを装い、寿司特有のマチズモの発芽を確認していく。高級寿司店における数々のマチズモや、店内の様子、二人の会話、考察が非常に痛快で面白い。特に会計の際、ごちそうするのは男性である著者……ではなく、もちろんKさんなのだが、Kさん(若い女性)が支払いをした瞬間の、「えっ、そっちが」という店内の目。高級寿司店は「男性が女性を連れてくる場所」(しかもそれは中高年男性と若い女性という組み合わせが多い)ではなかった時の周囲の動揺。ここにもまた大きく育ったマチズモがあった。 私たちは本書を読むことで、こんな場所(場面)にもマチズモがあったのか!と、改めて自分自身の思い込みや偏見に気づくことができるだろう。また、疑問に思ってはいたけれど、なぜそうなのか、その理由まで深く考えてみなかったことにも出会えるかもしれない。自身を振り返り、マチズモを温存したり耕したりしていないか確認しながら(誰でも無意識のうちにマチズモを容認したり見なかったことにしていることもあるはずだ)、そんな自分も受け止め、さてどこから削ろうかと本書を片手に考えてみたい。マチズモは削って削って、削り取り続けるしかないのだ。 |
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著者・出版社・出版年 |
武田砂鉄/著、集英社、2021 | |
請求記号 |
367.21/マ |
男尊女卑依存症社会
「男らしさの病」から回復するための処方箋 「男尊女卑依存症社会」――この言葉は著者・斉藤章佳さんとエッセイスト・小島慶子さんの対談(※『さよなら!ハラスメント 自分と社会を変える11の知恵』収録)から生まれた言葉で、日本は男尊女卑という価値観に深く浸食され、「男らしさ」や「女らしさ」といったジェンダー役割に過剰適応し、それに依存した社会であることを表したものです。精神保健福祉士・社会福祉士として20年以上アルコールやギャンブル、万引き、薬物、性犯罪、DV、摂食障害など、多くの依存症患者の治療に関わってきた著者は、日本では生きづらさを抱え、依存症に苦しむ人が増え続けていると言います。著者はあえて「男尊女卑」という語を使い、特に男性が「男らしさ」にとらわれることで生じる自他への有害な事象について、実例を挙げて説明しています。その中でも本書は男性のワーカホリック(仕事中毒)に焦点を当て、自己犠牲的な働き方がアルコールや性加害、DVなどの依存症の引き金(トリガー)になっていることが多いと指摘しています。 著者自身もまた、周囲の期待に応えることを第一優先とし、自傷行為的な働き方をしていた時期があったと自省を込めて過去を振り返っています。そのような働き方をしてしまう背景には、男性は成功する(勝つ)ために努力し、弱音を吐かずに仕事をし続けるものだ、という価値観があるのではないか(たとえ無意識であっても)と推察しています。そしてこれは「女性は家庭で、家事・育児・介護(ケアワーク)」という価値観の裏返しでもあります。 社会から期待されるジェンダー規範にとらわれ、その生きづらさから、物質や行為に耽溺していく。男性は仕事、女性はケア労働とともに依存症に陥りやすい状態になっていく。だからこそ昔から臨床の場では、依存症は「男(女)らしさの病」と呼ばれてきたそうです。 「男らしさ」へのとらわれは、男性の働き方や生き方に大きく影響しています。だからこそ、社会や誰かのためではなく、自分自身のために、この「男らしさの病」から抜け出してほしいと著者は訴えています。第4章では、そこから抜け出すためにできること、回復していくための処方箋として具体的な方法が提案されています。 タイトルの「男尊女卑」という言葉に反発を覚えた男性もいるかもしれません。ですが、なぜそんな反応が起きたのか、自身の中を掘り下げながら本書を読んでもらえたらと思います。男性ひとりひとりが自他を傷つける「男らしさ」を手放すことで、何よりもまず自分自身が今より生きやすく変わっていけるのではないでしょうか。 |
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著者・出版社・出版年 |
斉藤章佳/著、亜紀書房、2023 | |
請求記号 |
367.5/ダ |
気になる本
With Youさいたま職員がちょっと気になるテーマの本、話題になりそうな内容の本をご紹介します。
性のモヤモヤをひっくり返す!:ジェンダー・権利・性的同意26のワーク
性の問題、モヤモヤしっぱなしのままですか? 性に関する権利やジェンダー、セクシュアリティについて学ぶことは、自分と周りの人の心と体を尊重するためにとても大切なこと。現在、学習指導要領では「妊娠の経過は取り扱わないもの」とされているため、中学生以上が社会にでるうえで必要な学びは、周囲の大人たちにゆだねられているのが現状です。そこで、子供をとりまく大人たちに、ぜひ手に取っていただきたいこちらをご紹介します。 この本はワーク形式になっていて、項目ごとに3つのラベルがつけられています。「自分を大切にするための学び」、「身の回りにいる人を尊重するための学び」、「学校や社会で人々の権利が尊重されていくための学び」と3段階の構造をとることで、よりよい行動のヒントが見つけられるよう工夫されています。 また、性的嗜好や性自認といった言葉の定義が図解で丁寧に説明されています。実はわかっているようでわからない…なんてことはありませんか?「トランスジェンダーとXジェンダー」の違い、性分化疾患は70種類以上あること、つまり体の特徴は特定の性別ではないといった基本的知識を確認できます。 さらに、「バウンダリーと性的自己決定権」についての具体的な説明はもちろんのこと、「ジェンダーと司法」では、わたしたちを守るはずの法律や司法がさまざまなバイアスの影響を受けていることにも踏み込んでいます。 そして、興味深いワークも紹介されています。「性的同意を得る方法」を実践的に学ぶために、ピザを作ってみる。サイズ、生地、ソース、トッピングを話し合うことで同意形成を体感する。このようなワークを通して得られた知識や経験を、自分の生活範囲で行動につなげられる仕組みになっています。 各章には掘り下げを促すコラム、巻末にはおすすめの書籍や映像作品、相談窓口も掲載されており、子供たちの身近にそっと置きたい一冊です。 著者は「すべての人が尊重されるジェンダー平等な社会」を目指して活躍中の市民団体。ジェンダー平等な社会の実現には10代のうちから包括的性教育とジェンダー教育が必要と考え、若い世代へのアプローチに注力しているそうです。 |
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著者・出版社・出版年 |
ちゃぶ台返し女子アクション/著、合同出版、2024 | |
請求記号 |
367.9/セ |
マンガで読むジェンダー入門:男らしさ/女らしさの束縛から解放されよう!
「Ladies and Gentlemen」から「friends and colleagues」へ 本書は、イギリスの作家・ジェンダー研究者とイラストレーターによる共著『Gender: A Graphic guide』の日本語訳である。ジェンダーという難題を理解するため、4人の個性的なメンバーが時空を超えた旅に出て、考え、理解を深めていくというストーリー。ジェンダーの基本知識から性別二元論の問題点まで、複雑なテーマや難しい用語が次々登場するが、人間味あふれるイラストやセリフに助けられて読み進めることができる。いたるところでテーマに関連する映画や文学の名シーンがイラストで紹介されているので、話題になった作品をジェンダーの視点で改めて考える楽しさもある。 ジェンダーは、生活のあらゆるものとつながっているので、男らしさ/女さしさの規範から逃れたくても逃れることはできない。しかし、過去から旅をする中で、ジェンダーはシンプルな二元性ではなく、時間とともに変わることさえあり、人種や階級、年齢、障害の有無といった他のアイデンティティと深く交差し、複雑に重なり合ったものだとわかってくる。男性でも女性でもないノンバイナリーやトランスジェンダーの存在から、ジェンダーとは流動的で不安定なものだと思えてくる。「違い」に固執して分断するのではなく、二元的で階層的な制度をなくすために、共に協力して取り組もうーこの感覚を抱くことが、旅のゴールとなっている。 さほど分厚くはないのに、トピックもイラストもたっぷり詰め込まれた本書は、ジェンダーの歴史と理論と現在地を知ることができる一冊である。 |
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著者・出版社・出版年 |
メグ-ジョン・バーカー/文、ジュールズ・シール/絵、松丸さとみ/訳、いそっぷ社、2024 | |
請求記号 |
367.2/マ |
エッセンシャルワーカー:社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか
社会を支える仕事に従事する人を大切にしない社会に未来はない 「エッセンシャルワーカー」とは、医療や福祉、第一次産業や行政、物流や小売業など、いかなる状況下でも必要とされる職種に従事する労働者のことを指す。この呼び名は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、見聞きする機会が増えた。行動制限措置の際も、現場で働き続ける従事者に対して感謝や敬意が表明されていた。 本書では、エッセンシャルワーカーを大きく「小売業の主婦パート」「飲食業の学生アルバイト」「公共サービスの担い手の非正規化・民営化」「女性中心の看護・介護職」「委託・請負・フリーランスの担い手」の5類型に分け、働き方の変化を詳細に分析する。共通するのは「労働市場での地位が低く、報酬も恵まれていない」という課題だ。何故、不可欠で価値がある仕事をする人が軽んじられてしまうのか。この矛盾を正すためにはどうしたらよいのか。 また、5類型の多くに共通するキーワードが「非正規」と「女性」だ。非正規雇用は働く女性全体の54%、半数以上を占めている。その多くが来年も働き続けられるかさえわからない、先が見えない不安な状態に固定されている。非正規の女性は、伸ばせたはずの力、得られたはずだった収入の多くを奪われているとすらいえる。筆者たちは、ドイツとの比較をすることで、バブル崩壊後の『失われた30年』のなかで日本がとった選択が経済政策的に間違っており、男女の経済格差を拡大させたことを冷徹に明らかにしていく。 社会を支える人々の仕事や生活を悪化させ、不安定化することは、私たち自身の生活や社会の未来を損なうことになる。パンデミックがあったからこそ、そのことに気がつく契機が訪れた。感謝を示すだけではなく、エッセンシャルワーカーの置かれている理不尽な現状を理解し、非正規の拡大がもたらした悪循環を逆転させていく必要がある。未来への希望を取り戻すためにも、多くの人に読んでもらいたい一冊だ。 |
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著者・出版社・出版年 |
田中洋子/編著、旬報社、2023 | |
請求記号 |
366/エ |
暴力とアディクション
暴力とアディクションには家族の問題が密接に絡んでいる DVも虐待も今でこそ身近にあるものとして認識されていますが1970年代~1980年代はしつけや愛情の一部とみなされ、暴力とはとらえられていませんでした。DVという言葉が世界女性会議で生まれ、日本に上陸したのは1995年です。児童虐待防止法が2000年、配偶者暴力防止法(DV法)が2001年にできるまで、家庭は法の適用されない無法地帯でした。 この家庭が無法地帯だった1980年代から、著者はカウンセラーとして様々な依存症(アディクション)、それに伴う暴力に関連した多くのカウンセリングを行っていました。カウンセリングを続ける中で「依存症の背景にある家族の問題と暴力について考えるようになった」と話しています。 人が抱える心の傷や痛みには様々なものがありますが、その中には家族の暴力も含まれています。心の傷や痛みに苦しんできた人々の中には、その傷を「なかったことに」、痛みを「感じないように」、酒やギャンブルなどで紛らわせようとする人がいます。紛らわせることで”ひと時の苦しみや痛みからの逃避”を求めていたものが、やめたくてもやめられないコントロールの効かない状態となってしまう。それが依存症です。 依存症は本人だけの問題ではなく、家族の問題を引き起こします。家族は依存症本人の問題に対応することを優先するあまり、自分自身が二の次の存在になってしまいがちです。依存症の問題は周囲の家族も巻き込み、本人だけではなく、家族も苦しみを抱えることになります。依存症は心の痛みだけではなく、その家族の苦しみの連鎖となっていくのです。 2024年4月から困難な問題を抱える女性への支援に関する法律が施行されました。生きづらさを抱える女性たちには、本書に書かれているような家族の問題や暴力が深く関わっている人も多くみられます。まさに本書で語られている著者の思いが実際の支援に生かされるといっても過言ではないと思います。 著者は「小さなヒントや回答の光が見えた時、カウンセラーという職業を選んで本当に良かったと思う」とも話しています。暴力とアディクションに苦しむ人々の支援に関わる方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。 |
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著者・出版社・出版年 |
信田さよ子/著、青土社、2024 | |
請求記号 |
146.8/ボ |
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