情報誌 > Bookmark Vol.55 > #本棚から一冊 > 「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本」から
「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本」から
中にはWith Youさいたま情報ライブラリーの蔵書もありますので、今回のBookmarkでは、その一部を紹介します。
また、ゴールデンウィークまで、情報ライブラリー内で「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本」フェアを開催しています。
貸出しもしておりますので、ぜひ、お越しください。
同志少女よ、敵を撃て
戦時中の、真の「敵」とは? 舞台は、第二次世界大戦の独ソ戦。ドイツ軍の襲撃で母親と故郷を奪われた少女・セラフィマが、女性だけの狙撃隊の一員として成長し、過酷な戦場を生き抜いていく姿を描いた物語だ。ソ連は参戦国の中で唯一、百万人近くもの女性が従軍した国であり、また作中でも描かれているように、女性狙撃手が実在していた。 本書はロシア・ウクライナ戦争が始まった2022年の本屋大賞受賞作であり、また第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作でもある。タイトルの「敵を撃て」という、その「敵」とは誰のことだったのか? 戦時中の、真の「敵」とは? タイトルの意味がわかった時、戦争が人を変えてしまうのか、それとも……と考えさせられた。と同時に、この物語のテーマでもある国を超えた女性たちの連帯(シスターフッド)に勇気づけられた。 戦争が終わっても、女性兵士たちの人生は続いていく。でも戦争の物語の中で兵士は必ず男の姿をしていて、彼女たちについて語られることはない。終戦後の彼女たちがどのように生きたのか、そして女性にとっての戦争とは何か、本書を読むことで改めて考える機会になるのではないだろうか。 | ||
著者・出版社・出版年 | 逢坂冬馬著・早川書房・2021 | |
請求記号 | 913.6/ア |
宙(そら)ごはん
母と娘の様々なかたち 主人公の宙(そら)には、育ててくれている「ママ」と産んでくれた「お母さん」がいる。それは「さいこーにしあわせ」だったはずなのに、お母さん・花野と暮らし始めたことで、「普通の」母親らしいことを何もしてくれない花野に次第に不満を募らせていく。 イラストレーターとして活躍し、大人らしくないのが魅力的だった花野。でも花野は、朝は起きてこない、料理も子どもの世話もしない、あくまで自分の生活ペースを崩さない。宙はさびしさと孤独感に苛まれ、普通のお母さんが欲しいと願うようになる。でも、花野は宙の望む母親にはなれない人だと、それもまたわかっている。そんな宙の心を温めてくれたのは、花野の中学時代の後輩・佐伯の作る料理だった。ふわふわのパンケーキ、ほこほこのにゅうめん、とろとろポタージュスープ、ぱらぱらレタス卵チャーハン……、どんなに悲しい時でも、誰かと一緒に美味しいものを食べると、ほんの少し気持ちが温かくなる。人は食べることで自らの傷を癒し、また誰かを許すことができる。 二人暮らしを始めた母と娘、ふたりの戸惑いや衝突、そして和解までの過程を、本書は料理を通して丁寧に描いていく。悲しい時、嬉しい時、やるせない時、いつだってそこには料理があった。 食べることは生きることだ。たくさんのごはんが彼女たちを「母娘」として育んでくれたのだと、最後の一行を読んで改めて感じた。 母と娘の関係に正解はない。普通もない。母も娘も互いに変化し、様々なかたちを作り、いびつになったり丸くなったり……、それでも母と娘としてこれからも生きていく。それでいいのだと、本書は読者の背中をやさしく押してくれる。私もふわふわのパンケーキが食べたくなった。 | ||
著者・出版社・出版年 | 町田そのこ著・小学館・2022 | |
請求記号 | 913.6/マ |
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