サポートスタッフのイチオシ本
 With Youさいたまのボランティア「サポートスタッフ」が、With Youさいたま情報ライブラリー蔵書から選んだイチオシ本を紹介します。
 

ケーキの切れない非行少年たち/どうしても頑張れない人たち~ケーキの切れない非行少年たち2




”生きにくさ”を抱える子どもを社会が支援し続けるためには

 著者は児童精神科医で、少年院で勤務した経験を持つ。
 「ケーキが切れない」とはどういうことか‥‥。発達障害や知的障害を持つ非行少年が集まる医療少年院の少年に「丸いケーキを3等分に切って」と図を書かせると、不思議な線を書き入れてしまう(①の書籍に図が掲載されている)。それを見て、著者は「世の中のすべてが歪んで見えているのでは」とショックを受けたという。これでは反省や被害者の気持ちを想像させる従来の矯正教育がこの子たちには通用しないと考えた。そして彼らが今まで様々な挫折を味わっただろう、学校でも配慮されず、結果として非行に及んだと想像する。タイトルで「少年」と言っているが、もちろん「少女」も含まれる。
 私は仕事やボランティアで子どもにかかわるのでこの本を読み、自分の経験と重なり、共感するところもあった。学校の先生も気づいていない「境界知能」(明らかな知的障害などの診断は出ないが、支援が必要な人)に光が当たったのは、嬉しいことだ。
 少年非行というと、イコール家庭環境の影響と思われていたが、「境界知能」も関係しているとわかったことで、彼らが再び加害者とならないために、生活で困らないために、私たちは何をしなければいけないのか?という問いを投げかけたのが、この本だ。また、とりわけ著者がかかわった少年たちに性非行の割合が高いことや、なぜ幼女を狙うのかを説明していることも印象的だった。 
 著者は彼らの教育に「認知機能トレーニング」が効果的だと紹介している。学校教育の中に、このトレーニングを使って、対人関係や想像力などの社会面のスキルを系統立てて学ぶ機会が欲しいと言っている。子どもが育つ環境が変化している今(特にコロナ禍の影響が出ている)、どの子も社会面の支援を受けておくことに私は賛成だ。
 さて、その続編の「どうしても頑張れない人たち」は1冊目の反響を受けて、「そもそも頑張れない人たち、怠けてしまう人たちこそ支援が必要」という著者の主張を展開している。従来の教育方法が通用しない子どもへの対処に悩んでいる家族や教師、子どもにかかわっている人たち(支援者)に、「頑張る」の正体を明らかにし、頑張るための土台作りを提言している。
 頑張るとは何か‥‥著者は「特別なことではない、日々の生活を成り立たせるために我慢したり、努力すること」と言っている。ほとんどの人は、無意識にやっているが、できない人もいる。子どもは本来、この頑張る力を持っているが、環境が整わないと、見通しや目標を立てることができず、できたという達成感もなく次のステップに進めなくなってしまう。でもどの子も実は「みんなと同じになりたい」と思っているというのだ。そして頑張るための土台とは、安心の元となる家族や信頼できる人の存在とチャレンジできる環境のことで、まずこれを作りましょうと言っている。
 人を育てるには根気が必要だ。しかし、少子化と何事にも効率を求める風潮が影響して、子育て・人育ての文化が失われようとしている気がしてならない。そもそも子どもが生まれ持った「育つ力」をきちんと引き出すことに、社会ももっと取り組むべきである。また現状では、子どもが”生きにくさ”を抱えた時、収入の少ない方の母親が仕事を辞め、家にいて子どもと孤立してしまいがちだ。その実態は「家庭の問題」、「一部の女性の問題」として表に出にくかった。この本は母親たち、女性支援者たちの悩みを、男性が、“我々の問題”“社会の問題”として提起したことに意義があると思う。(S.S)
 

著者・出版社・出版年

宮口幸治・新潮社・2019、2021
 

請求記号

368.71/ケ、368.71/ド

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