#本棚から一冊

#本棚から一冊では、With Youさいたま職員のおすすめ本をご紹介します。

「国際女性デー」テーマの本

  国際女性デー(3月8日)は、女性の地位向上やジェンダー平等を目指す国連制定の記念日です。また、2025年は第4回世界女性会議で「北京宣言・行動綱領」が採択されてから30周年という記念の年です。国連をはじめ各国で様々な国際会議が開催され、その取組に注目が集まっています。

 今回のBookmarkでは、「国際女性デー」にちなんだ図書をご紹介します。この機会にぜひ手にとってみませんか? 

 

テヘランのすてきな女

テヘランの女性たちの“今”を知る

 私が、テヘラン(イランの首都)の女性と聞いて思い浮かべるのは、ヘジャブ(頭髪を隠すためのスカーフ)と、チャドル(身体の線を隠すための黒いコート)を身にまとい、イスラムの厳しい戒律と様々な制約の中で暮らす女性といったものだった。本書を手に取るまでは…。

 本書はインタビュー&スケッチ集であり、舞台は「反スカーフデモ」から1年後のテヘランである。「反スカーフデモ」とは、2022年秋以降、イラン全土に広がったデモである。その発端は、スカーフを適切にかぶらなかったとして女性が警察に連行され命を落とした事件に抗議したもので、若い女性を含む多くの市民が街に出て、命がけのレジスタンス運動を展開した。

 本編は、空港で出迎えてくれたふたりの通訳との会話から始まる。このふたりからは、「反スカーフデモ」が起こした社会の変化について自身の経験が語られた。その後ふたりの協力を得て、たくさんの女性に会いに行きインタビューが展開される。正義のために走り続ける弁護士。大学で24年間コンピュータエンジニアをしている女性。イランの女子相撲の選手たち。トランスジェンダーの学生。移民の子ども達が通う非正規の寺子屋の校長先生。と実に様々な女性たちの声を聴くことができる。インタビューでは、イランという国の実情やそれぞれの苦悩、思い等が語られていて興味深い。

 また、章ごとに描かれているスケッチも本書の魅力だ。読者に向かってほほ笑む、あたたかくかっこいい女性たちが印象的なスケッチを見ると、まるでその人たちに会って話を聴いたような気分を味わえた。

 他にも、インタビューの間には、テヘラン散歩と題し、テヘランの公衆浴場やピクニックなども紹介されており、人々の日常も知ることができる。

 インタビュー集であるため、どの章から読んでもおもしろい。テヘランの女性たちの“今”を知ることができる興味深く楽しい一冊である。

 

著者・出版社・出版年

金井真紀/著、晶文社、2024
 

請求記号

367.22/テ

女の子たち風船爆弾をつくる

数多の「わたし」が体験する苦しみに揺り動かされる

 1935年、関東大震災から十二年目の春。かつて瓦礫が積み上げられた地面の上に真新しい道路やビルが建てられ、「わたし」は真新しい服を着て小学校に入学する。日露戦争30周年に日本が沸いた春、「わたし」はできたばかりの東京宝塚劇場の、華やかな少女歌劇団の公演に夢中になった。やがて戦争が始まり、雙葉・跡見・麹町の女子学生たちはかつての東京宝塚劇場、中外火工品株式会社日比谷第一工場に集められ、「ふ号兵器」、すなわち風船爆弾の製造に従事する。アメリカ本土に直接攻撃を仕掛けることが目的だった。

 語り手の「わたし」は、1人ではなく、当時の女学生のわたし、複数の少女たち。感情移入しづらい文体だが、生の声が元になっているせいか、並列的に何人かの「わたし」が語っていく中で次第に自分の声のようにも思えてくる。戦争は、「わたし」を「わたしたち」という存在に変えていく。巧みに入り込んでくる「わたしたち」は大日本帝国であり日本人。彼女たちが当時の体制の被害者でありつつ、一面ではその体制を構成した一員であるという手法が効果的だ。淡々と続く筆致に、加害の歴史から目を逸らさない著者の覚悟と怒りが伝わってきた。

 終戦を迎え、少女たちはずいぶん経ってから衝撃の事実を知る。ここも抑制された文章で書かれており、却って戦争で青春を奪われ加担させられた少女たちの無念さが迫ってくる。語り手はちょうど私の母と同世代。読み進める中で何度も母のことを考えた。戦争で失った時間は二度と戻らない。今も世界各地に同様な状況に置かれた少女たちが多くいる。

 著者は、膨大な参考文献と関係者への聞き取りから丹念に声を拾い、圧倒的な作品を書き上げた。ぜひ筆者の強い思いを受けとってほしい。読みづらく感じるかもしれないけど読み通してほしい。とても強烈な読書体験ができる一冊だ。

 

著者・出版社・出版年

小林 エリカ/著、文藝春秋、2024
 

請求記号

913.6/コ

「差別」のしくみ

現在の差別問題に正面から取り組むために

 差別とは、社会的または経済的に優位な立場の者が劣位にある者に対して行う、尊厳を損なう行為を指します。多くの人々が「差別は容認できない」と認識し、法律でもその禁止が明記されています。しかし近年では、表面上は平等に扱われているように見えるものの、その背後には差別意識が潜在している事例が増加する傾向にあります。「差別」と「区別」の定義は非常に複雑であり、これらが頻繁に混同されるため、差別の明確な定義が必要とされています。

 筆者は、非嫡出子の相続権、同性婚、夫婦別姓など現代の法的テーマから、奴隷解放による歴史的な差別問題まで取り上げ、差別構造を詳細に分析します。そして憲法14条には平等権とは別に差別から個人を保護するための「差別されない権利」が保障されていると主張します。「差別されない権利」を正面から認めるべきというのが筆者の主張のポイントです。国家には差別を防ぐ責任があるという指摘も重要です。

 本書を読んでいる時に、トランプ大統領が再選されました。アメリカ合衆国は長年にわたり国内の差別解消に努めてきた歴史がありますが、新政権下で掲げられた「多様性への取組は差別である」という政策により、企業や大学は多様性・公平性・包括性(DEI)の取組を後退させる兆しを見せています。人種や性別による格差は未だに存在しており、DEI推進活動の停滞は、女性やマイノリティに対する環境をさらに厳しくする可能性があります。取組が不十分な日本国内においても、「米国でもDEIが後退しているから」を理由に、マイノリティの権利が反動を受けるのではないかと懸念されます。

 「あとがき」には、「『許されない差別を糾弾する』ことよりも、『差別の構造を分析し、その悪性を解明し、問題解決の糸口を見つけ出す』ことに努める」と書かれています。連載記事を基にした各章が簡潔にまとめられ、読みやすく学び多い一冊です。 

 

著者・出版社・出版年

木村草太/著、朝日新聞出版、2023 (朝日選書:1040)
 

請求記号

361.8/サ

気になる本

 With Youさいたま職員がちょっと気になるテーマの本、話題になりそうな内容の本をご紹介します。

教育虐待 : 子供を壊す「教育熱心」な親たち

現代の闇を照らし親子のあり方を問う

 親が子供の意思を無視して受験等を押し付け、独善的に掲げる高い理想に到達させるために“愛の鞭”と称して暴力をふるったり精神的に追い詰めたりする行為を教育虐待という。なぜ日本社会では行き過ぎた教育が今なお行われているのか。学歴があれば社会的に認められ豊かな生活が保障されるという考え方がスパルタ親を駆り立てている。子供たちは親に名門校への進学を厳命され受験が近づくにつれてどんどん重いプレッシャーをかけられる。その犠牲になるのは子供たちの柔らかい心である。

 本書は多くの凄惨な事例が挙げられている。中でも医学部9浪母親殺害事件は有名なケースだ。母親の暴力を辞さない激しい教育熱を受け続けた娘。恐怖により母親から逃げられない環境は如何に苦しいものであっただろうかと心が痛んだ。母親を殺害した加害者である娘は、「私は被害者」という認識を現在でも持っているという。

 著者がこの問題に注目した理由は、不登校児が9年連続増加、家出少年少女の理由の根底に、一定数の教育虐待があると取材によって明らかになった為である。子供たちは孤独や自己否定を感じ親子関係に違和感を抱え成長し、それは歪んだ形となって現れる。成人後も“生きづらさ”の原因となることもあり影響は深刻だ。

 また著者は、理想やコンプレックスの解消を子供に託す親たちの背景に自身の発達障害や虐待・被虐待の影響があるケースに着目し、この問題に切り込んでいる。「私を見てほしかった。」「私を認めてほしかった。」これは教育虐待サバイバーの言葉である。私たちが彼らに対してできることは何であろうか。

 2004年にいわゆる児童虐待防止法が改正されてから、児童相談所への通報件数が増えて、多くの人々に虐待の知識が浸透した。著者は、このように教育虐待の概念が社会に認識されることが予防や発見に繋がると声を上げている。本書は「どのような未来を作るか」と「どのような教育をするか」を同義とし、子供にとって最良の教育とは何かを問いかけている。

 

著者・出版社・出版年

石井光太/著、早川書房、2023 (ハヤカワ新書:005)
 

請求記号

379.9/キ

女たちが語る阪神・淡路大震災1995-2024 : いいたいことがいっぱいあった

震災から30年間、女性の視点で社会を問い続ける

 阪神・淡路大震災から今年の1月で30年が経過しました。神戸市は復興を遂げましたが、当時被災した女性たちは現在どのように生活しているのでしょうか。

 本書は、神戸市の認定NPO法人が震災の翌年に出版した書籍「女たちが語る阪神・淡路大震災」の続編として位置づけられています。「震災から30年後の私」というテーマのもと、被災した女性たちから手記を募集し、集まった25名分を1996年に出版された手記の一部とともに収録しています。これらの証言からは、大震災時において女性が苦しい立場に置かれる日本社会の構造が浮かび上がります。

 本書の『(30年前と)何も変わっていない』という女性たちの怒りに共感しつつ、困難な状況の中で女性たちが協力し合い、見えてきた社会の課題に取り組んでいく姿にも感銘を受けました。代表理事の正井礼子さんが発災後に避難所での性被害について発信すると、一部のメディアからデマだとの批判を受け、10年間ほど発言を控えざるを得ませんでした。その後、2004年のスマトラ沖地震で現地の女性団体が実施した調査活動に勇気づけられ、活動再開。東日本大震災では女性と子どもへの暴力について調査し、以来、正井さんは「災害とジェンダー」をテーマに講演活動を続けています。現在、災害時の暴力問題とその防止対策の重要性が認識されるようになったのは、被災地の女性たちの不屈ともいえる活動の成果といえます。こうした歩みを経て、私たちは「防災対策は日常から。災害時に女性の人権を守るためには、平時におけるジェンダー平等が不可欠」(P233)という重要な教訓を得たのです。本書はその貴重な記録です。

 この30年で、防災活動や大災害時の支援活動を主導する女性たちは増加しています。しかし、災害とジェンダーに関する取組には未だ偏りがあります。計画やガイドラインは存在しますが、災害時に実践されるかどうかは不確定です。女性への配慮は進んでいる一方で、女性の参加は課題として残っています。育児中の母親や高齢者以外の女性のニーズは十分に考慮されていません。今後も対応すべき課題が多数あります。本書は、多くの方々にとって有益な情報源となります。ぜひお読みください。 

 

著者・出版社・出版年

女性と子ども支援センターウィメンズネット・こうべ編/著、ペンコム、2024
 

請求記号

369.3/オ

マダムたちのルームシェア

〇〇年後はこうありたい

 いわゆるシニアといわれる年齢になったとき、私はどこで誰と暮らしているのでしょうか・・・?

 この本は、職業もこれまでの家庭環境も気質も全く違う推定60代の「マダム」3人がルームシェアで暮らす日常を描いたコミックです。

 マダムたちはまさに三者三様。経営者でおそらくずっと独身、おしゃれで一見クールだけど優しい沙苗さん。子育てを終えた働くシングルマザーで、元気なムードメーカーの栞さん。孫もいる専業主婦で比較的最近夫に先立たれた、おっとり癒し系の晴子さん。経歴も家庭環境も気質もまちまちな3人の同居生活は、ひな祭りやお月見といった季節ごとの行事をはじめちょっとしたイベントを企画するなどとても充実しています。3人が日々の生活を思い切り楽しんでいる様子がとても魅力的で、読んでいる自分も一緒に暮らしているような気持ちになります。

 3人は学生時代からの友人で気心が知れており、何かあったときはお互いに気遣い合い、助け合う仲。その距離感が絶妙なのです。相手の感情に寄り添いながらも決して押し付けがましくない。そして一歩踏み出す勇気を与えてくれます。

 そして基本的にポジティブな言葉しか言いません。褒めるのも上手い。少し毒を吐くことはあっても、その根底には愛があります。だから読むと気持ちが元気になり、明日へのモチベーションも上がります。

 この作品には、お金や病気、介護など現実的な事柄や諍いは一切描かれていません。明るくおしゃれな夢物語です。だからこそ、3人のマダムたちを見ていると、周囲への気遣いや前向きな気持ちを忘れなければ大丈夫、なんとかなると思えてきますし、年齢を重ねていくのが楽しみにもなるのです。

 どこで誰と暮らすにせよ、一人暮らしにせよ、健康で友達がいて楽しく毎日を過ごす。理想的な老後の一つの姿がここにあります。年代や性別を問わず、どなたにも読んでいただきたい一冊です。 

 

著者・出版社・出版年

seko koseko/著、KADOKAWA、2022
 

請求記号

726.1/マ-1~2

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